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あーてぃすと。

2012 - 04/21 [Sat] - 23:47

不二子ちゃんアニメ第三話、まだ録画しただけで見れてません。でも、五ェ門は旧ルテイストだったらしいですね。楽しみです。

今日は、映画「アーティスト」を観てまいりました。観よう観ようと思ってて、なかなか観に行けなかったのですが、上映数が減ってきたのでそろそろ行っとかないとまずいなと。

さて、「アーティスト」。アカデミー賞5部門受賞のサイレント映画。実はサイレント映画はチャップリンのくらいしか見たことがなかったので、見る前はどんなものなのかなと思っていました。さ、最近あんまり寝てないよ、どーしよう途中寝たら…なんて思ってたくらいなのですが。
いや、とんでもない。そりゃもう素晴らしい出来の映画でございました! 愛してるわミシェル監督!!
というわけで、感想です。例によってネタバレいたしますよ。

ジョージ・ヴァレンティンは、無声映画の大スター。いつも愛犬を傍らに連れ、映画にも共に出演。誰もがジョージに惜しみない賛辞と拍手を贈っていました。
ペピー・ミラーは、最初はただの可愛らしいお嬢さん。舞台挨拶を終えて外に出てきたジョージを取り巻く人々の混乱の中で、たまたまジョージにぶつかってしまいます。けれどジョージは優しく対応してくれて、新聞記者にあおられたペピーは少し調子に乗って、ジョージの頬にキスをします。
翌朝の新聞には、ジョージにキスしているペピーの写真が「この娘は誰!?」の見出しとともにばばんと一面に。渋い顔をする妻に向かってジョージは犬とともにおどけてみせ、一方ペピーはその新聞を携えてハリウッドのエキストラ募集に参加。その場でダンスを披露して、エキストラ役を手に入れます。
そして、撮影現場で再会するジョージとペピー。自然とひかれあう二人。ジョージはペピーに、「女優を目指すなら、目立つ特徴がなくちゃ」と言って、唇の上にほくろを描いてあげます。
やがて映画業界には変化が訪れます。サイレントからトーキーへ。でも、サイレント映画に誇りを持つジョージには、どうしてもそれが受け入れられない。会社と縁を切り、自分で監督脚本主演をしてサイレント映画を作るくらいに。でも、世間はもうサイレント映画なんて求めていないのです。落ちぶれていくジョージ。妻に家を追い出され、狭いアパートで暮らし、己の持つ全てをオークションにかけて金を得ないと暮らしていけないほど。
一方ペピーは、キュートな笑顔と演技で映画界のトップに。でも、ペピーはずっとジョージのことが気にかかっていて、なんとか彼を救おうとする。
己の誇りゆえに何もかもを失っていくジョージと、ジョージを締め出した映画界で華やかに輝く女優になってしまったペピー。その立場の違いが、二人の間を引き裂いてしまう。はたしてペピーの気持ちはジョージに届くのか、そしてジョージの人生はどうなるのか…というお話。

サイレント映画というのは、不思議なものですね。役者さん達は確かに口を動かして台詞を言っているのに、聞こえない。効果音もない。ほんの一部の台詞だけが、字幕で出るだけ。音楽だけが、その場を盛り上げる。
ということは、ほとんどの台詞は想像で補うことになるのですが…これが意外とできちゃう。シチュエーションと役者さんの表情から、自然と何を言っているのかが読み取れてしまう。これはある意味すごいことだと思います。
映画の中で、もうだいぶ落ちぶれてしまったジョージが、ペピーの出ているトーキー映画を愛犬とともに観に行くシーンがあります(…当時映画館って、犬連れて入ってよかったのでしょうか?)。映画が終わり、帰ろうとするジョージを後ろから呼び止める太ったおばちゃん。振り返るジョージ。彼の頬に浮かぶ、かすかな期待と喜び。けれどおばちゃんは、ジョージの腕の中の犬の頭をなで、何事かをさかんに喋る。彼女に対してジョージが言った言葉が、字幕で表示されます。「無口な犬でして。こいつが喋れたらよかったんでしょうけど」そして、ジョージはおばちゃんを置いてその場を去るのですが。
これ、つまり、ジョージは期待したんですよね。自分を知ってる人が呼び止めてくれたのだと。「まあ、あなたジョージ・ヴァレンティンじゃありませんこと? わたくし、あなたのファンでしたのよ!」と言ってくれるのを。けれどおばちゃんはたぶん、「まあ、なんて可愛いワンちゃん! オス? メス? お名前は? いい子ねー」みたいなことしか言わなかったのです。おばちゃんを見るジョージの瞳に浮かぶ落胆、映画館を出て愛犬を腕に歩くジョージの寂しげな姿。それらが、台詞なんてなくても何もかも表現してくれて。

実際、サイレントからトーキーへの波に乗れずに仕事を失っていった役者さんは何人もいたといいます。時代の流れは観客には新しい喜びをもたらしてくれますが、その陰にはこんな悲しみもたくさんあったのだろうなと思うと、なんだか複雑な気分になりますね。確かに今は何でもCGで作れちゃうし、鮮烈な映像の連続で観客の目を奪うことなんて当たり前なんですが、その分失われたものもたぶんあると思うのです。昔の映画の巧みな構図や脚本、知恵を絞った工夫は、今見ても十分素晴らしいと思えますから。…ああ、だから私、低予算のホラー映画が好きなのかも(笑)。何しろお金ないから色々頑張って工夫してるんだものあの人たち!

ジョージを演じたのは、ジャン・デュジャルダン。…ええと、正直に言います。映画観る前は、実はあまりお顔が好きじゃなかった…いやあの、濃いお顔だなあと!でも、映画が進むうちに、なんだかどんどん愛しくなる。笑顔がチャーミングなんですよね。あと、ジョージの周りにいる人々が、なんだかんだで彼をとても愛してるんですよ。ペピーは勿論、スター時代からずっとお抱え運転手をしてたクリフトンもそうだし。
全てに絶望したジョージが、自分の映画のフィルムに火をつけるシーンがあるんです。が、燃え上がる炎を見て急に我に返り、なんとかフィルムを救おうとして。慌ただしく拾い上げたとあるフィルム缶の表書きを見た瞬間、彼は何とも言えない切ない表情になって、ぎゅっとそれを抱きしめるんですが。このときの表情が、本当にたまらない。あと、私てっきりそれは彼自身が監督をして撮った映画のフィルムなんだと思ってたんですが、後で違うことがわかって。そのとき、ああこの映画は恋愛映画なんだなと思いました。

ペピーを演じたのは、ベレニス・ベジョ。最初の方はあまりあかぬけない感じなんですが、スターになっていくにつれて、どんどん美人になる。まだエキストラの頃、こっそりジョージの楽屋に忍び込んで、吊るしてあった彼のタキシードの片袖に自分の腕を入れて自分を抱きしめるところは、本当に素敵な名シーンだと思います。
そして、忘れてはいけないのが、ジョージの愛犬を演じたアギー。本作でパルムドッグ賞受賞の名優。いやー、犬は演技しますね本当に!アギーを見るだけでも十分価値があると思いますよこの映画。
あと、なにげに印象に残ったのが、ジョージの妻役のペネロープ・アン・ミラー。ジョージの女好きのせいもあってか、夫婦の仲はすっかり冷え切ってて、奥さんはひたすら雑誌に載ってる旦那の写真にペンで落書きしてるんですが。ジョージの没落が始まった頃、自分が崖っぷちにいることが分かっているのに退こうとしないジョージに向かって、妻が「話し合いましょう」と言うシーンがあるのです(ここは台詞が出ます)。「私たち、話し合わなくちゃいけないわ。…話したくないの? どうして? 私、悲しいのよ」と。それに対し、ジョージは愛犬をなでながら、ろくに妻の顔も見ずに「悲しみなんて万人にある」と答えるんです。その瞬間の、妻の表情の変化がすごい。一瞬凍りついて、何かを決意した瞳でジョージを睨んだまま、両頬の涙を順番に手で拭う。なんだかひどく印象に残るシーンでした。
あと、冒頭でジョージと共演してた女優さんも、ある意味記憶に残る…なんというか、顔が…というか、表情がくわっとしてて…。どっかで見たことあると思ったら、「チャーリーとチョコレート工場」のバイオレットの母親役の方でした。うん、あのときもくわっとしてた(笑)。

本当に映画への愛に満ちた名作で、そしてまぎれもない恋愛映画です。もしまだ観てないという方は、ぜひぜひ映画館へどうぞ。泣けます。本当に泣けます。
というか、本当に私最近涙もろくなったなあ…学生時代とかは、むしろ泣けない方だったんですが。近頃は本読んでも映画見ても芝居見ても泣ける。年取った証拠ですね(笑)。


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プロフィール

水瀬桂子

Author:水瀬桂子
水瀬桂子。
1月21日生まれ。水瓶座のO型。
趣味は観劇、映画鑑賞、読書。旅に出るのも好きです。
おいしいものを食べて、素敵な物語に接していられれば、この上なく幸せです。
三笠書房f-Clan文庫さんより、『妓楼には鍵の姫が住まう-死人視の男-』『妓楼には鍵の姫が住まう-黄泉がえりの人形-』が発売中です。

なお、「水瀬桂子」は「渡瀬桂子」と同一人物です。渡瀬桂子名義の近刊に『少年魔法人形 キスからはじまる契約魔法』『ある日、月の夜に。-わがままな魔女と人狼の騎士-』(ともに一迅社文庫アイリスさんより)があります。水瀬名義は、f-Clan文庫さんが初めてです。こちらは、より趣味っぽい感じのもの用になりそうな予感…。

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