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90ミニッツ。

2012 - 02/21 [Tue] - 00:40

ちょっと前に観たのですが、例によって感想をあげそこねていたので。ネタバレしていますので、もしまだこれから観るという方は、スルーしてくださいませ。

三谷幸喜生誕50周年スペシャル「三谷幸喜大感謝祭」のラスト、『90ミニッツ』。去年の本公演時にはチケットがとれなかったのですが、追加公演でなんとか観られました! パルコ劇場。前から5列目下手寄り。役者さんの表情がよく見える、いい席でした。
あらすじとしましては、こんな感じかと。

ここに二人の男がいる。
男1は、大学病院の整形外科の副部長。もうすぐ丘の上に念願のマイホームを買う予定。不動産屋と電話していた男1のもとに、内線で連絡が入る。9歳の男の子が事故に遭い、手術が必要だが、父親が承諾書にサインすることを拒んでいるとのこと。父親の説得を引き受けた男1は、10分で説得を終えるつもりでいる。
男2は、少年の父親。現代医療を拒否している地域に住んでおり、地域の教えを守って生きている。たまたま同窓会のために村を出てきて、一緒に連れてきた子供が彼の不在中に事故に遭った。男1のもとにやってきた彼は言う。「手術はいいんですが、輸血は駄目です」
男2の村の教えでは、「他のものの肉」を体に入れることは絶対の禁忌なのだという。そんなことをしたら生まれ変われなくなる、永遠の命が失われてしまう。だから絶対駄目なのだと。
男1は言う、「輸血は肉を食べるのとは違います。血と肉は違いますし、何より入る場所が違う。肉は消化管、血は血管です」
男2は妻に電話をかけ、男1の言葉を伝える。が、返ってきた答えは「麻薬は鼻から入れようが口から入れようが血管から入れようが体に悪い。だから駄目」
子供の命を救うためには、90分以内に手術を始めなければいけない。そのためには、輸血は欠かせない。男1は必死の説得を続け、けれど議論はどこまでも平行線をたどり、屁理屈に屁理屈が重ねられる。内線からは少年の容体悪化を伝える電話がかかり続ける。
男2は叫ぶ。「輸血なしで! 手術を!」
男1も叫ぶ。「話にならない!」
90分という限られた時間を着々と食いつぶしていく、倫理観の違い。そしてエゴ。はたして少年の命は助かるのか…というお話。

男1を演じるのは、西村雅彦さん。男2を演じるのは近藤芳正さん。どちらも素晴らしい俳優さんでございます。
事前情報で、今回は笑いを排除したシリアスだと聞いておりました。テーマは「倫理」。実際にあった事件をもとにしつつ、たった二人の役者によって演じられる90分一本勝負。
とはいえ、意外なほどに観客は笑っておりました。私も、何度も笑いました。それは三谷さんならではの台詞の妙であり、また三谷作品特有の「何かに真剣な人って、傍から見ると滑稽で笑える」というやつなのでしょう。扱っているテーマからすれば実に不謹慎なのかもしれませんが、実際、かなり笑った覚えがあります。

しかし、お話自体は重いです。どうしてもわかりあえない二人。少年の命を救いたい医者。息子を救いたいけど、息子の「永遠の命」も守りたい父親。男1が何度も繰り返す「だんだんわかってきましたよ!」「…わからないなあ!」という台詞は、違う地平に立って生きている二人の違いをよく表しています。
そして、話が進むにつれて浮き彫りになってくるのは、そんな彼らの建前の裏にあるエゴ。
「少年を救いたい」と言う男1の心の裏には、「裁判を起こされては困る」という気持ちがあるわけです。だから、どうしても承諾書にサインが欲しい。本当に少年を救いたいなら、もうサインなんて無視してとっとと手術してしまえばいいのです。でも、教授への昇進がかかっているこの時期に、裁判だけは絶対に困る。
「息子を救いたい」と言う男2の心の裏には、村にいる妻(これがまたものすごく怖い。電話の向こうでわめいてる声が客席まで聞こえる。誰かと思ったら、戸田恵子さんだったようで…ああ、それは勝てっこない)が怖いとか、村を出ていくことになったら困るといった気持ちがあります。

では少年自身の意見を訊いたらどうか、という話になります。
やがて少年の言葉が、看護師達によって内線を通じて届けられます。
が、その言葉でさえ、大人達によって解釈が変わっていく。
なんというか…もどかしい上に、恐ろしい。
そして、少年はついに危篤状態に陥るわけです。

舞台中央に、芝居開始時からずーっと一筋の水が流れているんですが、最初この意味がわかりませんでした。が、この水が、ある瞬間、ぴたりと止まるのです。この瞬間の恐怖といったら、もう。まさに時間が止まった瞬間でした。

決して後味の良いお話ではありません。人によってはたぶん、このお話は嫌いでしょう。でも、私は、役者さんの演技も含め、観てよかったと思っております。

というか、このお芝居、何しろほとんど舞台セットもない状態で、二人の役者さんがリアルタイムに90分演技合戦をするわけです。これ、脚本や演出も重要ですけど、何より役者さんが上手くないともたないですよ。その点、本当に素晴らしかったです。照明の変化も、はっとするものがあってとても良かった。
色々考えさせられるお話でしたが、やっぱり私、三谷作品が好きです。

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プロフィール

水瀬桂子

Author:水瀬桂子
水瀬桂子。
1月21日生まれ。水瓶座のO型。
趣味は観劇、映画鑑賞、読書。旅に出るのも好きです。
おいしいものを食べて、素敵な物語に接していられれば、この上なく幸せです。
三笠書房f-Clan文庫さんより、『妓楼には鍵の姫が住まう-死人視の男-』『妓楼には鍵の姫が住まう-黄泉がえりの人形-』が発売中です。

なお、「水瀬桂子」は「渡瀬桂子」と同一人物です。渡瀬桂子名義の近刊に『少年魔法人形 キスからはじまる契約魔法』『ある日、月の夜に。-わがままな魔女と人狼の騎士-』(ともに一迅社文庫アイリスさんより)があります。水瀬名義は、f-Clan文庫さんが初めてです。こちらは、より趣味っぽい感じのもの用になりそうな予感…。

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