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東海道四谷怪談。

2015 - 06/16 [Tue] - 01:56

先週半ばに新国立劇場で上演中の「東海道四谷怪談」を観てきました。鶴屋南北の歌舞伎台本をもとに、歌舞伎ではないながらも元の台詞回しを活かした作りで、大変面白かったです。演出は森新太郎さん、伊右衛門役は内野聖陽さん、お岩様には秋山菜津子さん。森さんと内野さんの組み合わせというと「ビッグ・フェラー」を思い出しますね。
というわけで、感想です。ネタバレしますよー。

民谷伊右衛門は塩冶の浪人。色男だが、過去の悪行ゆえに妻のお岩と離縁させられ、それを不服に思っている。舅の四谷左門にお岩との復縁を迫るも、「盗人に娘はやれん」と左門は言い捨てる。伊右衛門は辻斬りに見せかけて左門を殺し、悲嘆に暮れるお岩に「この仇は俺が必ずとってやる」と言って、まんまと復縁に成功するのだった。
やがて時は流れ、お岩は伊右衛門の子を出産。けれど、いまだ士官するあてもない伊右衛門には、赤子など疎ましくてならない。その上、お岩は産後の肥立ちが悪く、床に伏せったまま。うんざりした様子の伊右衛門のもとに、なぜか隣家の伊藤喜兵衛は熱心に差し入れをしてくる。伊右衛門とその仲間達には酒と食べ物を、お岩のもとへは赤子の着物と血の道によく効く薬を。なんて親切な隣人? 勿論そんなことはない。喜兵衛の孫のお梅は伊右衛門に懸想しているのだ。孫の想いを叶えたい一心で喜兵衛は伊右衛門を家に招き、お岩に贈った薬は実は毒薬であると告白する。飲んでも命に別状はないがみるみる容貌が醜く崩れる薬だったのだと。最初はお梅を嫁にもらうことを渋った伊右衛門だったが、士官のための口利きを約束してもらうと途端に態度を変える。家に戻ってお岩が醜く変わっていることを確認すると、按摩の宅悦にお岩を手込めにするよう命令して、離縁の口実にしようとするのだった。が、宅悦とて、ここまで醜い女を手込めにするなど無理な相談。お岩の抵抗にも遭い、結局宅悦は伊右衛門と喜兵衛の企みを白状してしまう。全てを知ったお岩は民谷伊藤の両家を恨み、憤死する。そこへ再び戻ってくる伊右衛門。すでに伊藤家にて内祝言を行い、これからこの家にお梅を妻として迎え入れるつもりである。お岩の死体を見つけた伊右衛門は、はてどうしたものかと考える。宅悦と不義を働いたお岩がそのまま宅悦と一緒に家からいなくなる、それが伊右衛門が考えていたシナリオ。が、宅悦は逃げ、お岩は死んだ。ああそうだ、そういえば押し入れの中に小平を閉じ込めていたのだった。家宝の薬を盗んだ咎で捕らえていた奉公人の小平。奴がお岩と通じていたことにすればいいのだ。伊右衛門は小平を殺し、お岩の死体と小平の死体を戸板の両面に釘付けにして川に流す。さあ、これで厄介者はいなくなった。お梅と新たな舅の喜兵衛を家に迎え入れ、今夜は初夜だ。寝床はお岩が使っていた場所でいい。生娘はさぞ美味かろう…けれど、寝床にいたのはお梅ではなく死んだはずのお岩。やや、岩よ迷ったか。伊右衛門を見てけらけら笑うお岩を一刀のもとに切り捨てる伊右衛門。だが、転がった死体はまぎれもなくお梅のもの。慌てて舅の喜兵衛のところへ行ってみれば、やはり死んだはずの小平が喜兵衛に預けたはずの赤子をがつがつ喰らっている。なんということかとこれも斬り捨ててみれば、転がる死体はやはり喜兵衛のもので……――。

東海道四谷怪談。お岩様といえば、『リング』の貞子ちゃんや『呪怨』の伽椰子さんが出てくるまでは日本で一番怖い女性の幽霊だったのではないでしょうか。いえ、今でも私はお岩様が一番怖い気がいたします。もとは美しかった顔が崩れる、というのがまず怖いんですよね。そしてとにかく恨みが深い。関係者すべて抹殺! 上演した演劇関係者にも祟る! 上演前にはお参りと御祓いを必ずね! お岩様頑張りすぎです!! そういえば学生時代にお岩稲荷にお参りに行ったなあ…お岩様のお墓にもお参りに行きましたよ。実在のお岩様は大変貞淑な妻で、勿論醜くもなかったそうなんですけどね。
伊右衛門役の内野聖陽さん、とってもハマってましたね。伊右衛門、ひどい奴なんですよ。都合が悪くなるとすぐ相手を殺しちゃうし、お岩様にも小平にもそりゃあむごいことをするし、なーんも考えずにその場しのぎのことしかしないし。でもなんだか、どこか憎めないところがあるんです。「本当にどうしようもない奴だなあ」と思いつつも、どこかに魅力を感じてしまうんです。だからこそ、この救いようのない男を最期の瞬間までずっと見つめていたくなる。内野さんの持つ人たらしな雰囲気が、そう思わせるんだと思います。私やっぱり内野さん大好きだなあ…本当に、魅力的な役者さん。そしてやっぱりいい体(笑)。ぱっと着物の裾をめくって太腿があらわになった瞬間、「きゃー♡」となったのは私だけじゃないはずだ!!(笑) いや、「幻蝶」のときはもっと色々すごいところまで見た気がしますが!!
お岩様役の秋山菜津子さんも、ものすごいハマり役。このお芝居、お岩様以外の女性キャラは全て男性が演じているので、唯一の女優さんでもあったのですが、もう本当に…すごかった。お岩様の悲しさも恐ろしさも美しさも醜さも何もかも演じ切ってましたね。お岩様が薬を飲むくだりが、なかなか印象的でした。これね、長いんですよ。飲もうとしてから飲むまでが、ものすごく時間かかる。白湯を湯呑に入れに立ち、まず歩く間によろよろする。何しろお岩様は大変具合が悪いのです。ちょっと動くだけでも眩暈を起こしてしまうのです。観客は「飲んじゃいかん!」と思いつつも、「おい、いつ飲むんだ!」とちょっとはらはらしてしまう。そのくらい時間がかかるのです。で、なんとか席に戻って、もらった薬を取り出して、まずは手をきれいに拭く。喜兵衛の家の方角に向かって礼を述べ、これを飲めばきっと良くなるはずだと言って、薬を手のひらに出してから口に入れ、手に残った粉を丁寧に湯呑に落として、白湯ごと飲んで…もうとにかく、お岩様が薬を飲む過程をものすごく丁寧に描いてる。この薬さえ飲まなきゃお岩様はああはならなかったわけで、もう否応なしに印象に残るシーン。そして、すっかり顔が崩れてしまった後、お岩様が伊藤さんの家に文句を言いに行こうとして、その前に身支度をするシーンがあるんですよ。ここのお歯黒をつけるシーンが、この芝居中一番怖かった…お歯黒自体が現代人にはどうにも受け入れがたいんですが、腫れ上がった顔を観客に向けて歯を剥き出し、それを黒く塗るお岩様が滅茶苦茶恐ろしい。で、例の髪をとかすシーンがその直後ですよ。「髪、抜けるんだよな…」と知っていても怖い。お岩様が櫛を髪にいれて引くと、ずるうっと抜け落ちる髪…南北先生、怖すぎますこの演出! あんた天才だよやっぱり! そうしてさらにひどい姿になったお岩様が立ち上がった瞬間、まだ生きてるのにすでに怨霊にしか見えませんでしたよ。目つきが尋常じゃない! そんな顔で「恨めしい」なんて言われたら「すいませんでしたー!」と即座に土下座ですよ! 本当に、秋山さんの「恨めしいぞえ伊右衛門殿」の台詞、素晴らしかった…私が小さい頃からずっと怖かったあのお岩様がそこにいました、はい。

と、まあ、怖い芝居なんですが、あちこち笑える部分もありました。まず、何よりお梅が!! 若く愛らしく可憐なはずのお梅を演じていたのが、何しろ有薗芳記さんですよ。映画やドラマでもよくお見かけする方ですが、まさかのキャスティング(笑)。冒頭から、恋に悩むお梅を、それはもう、か、可愛らしく…い、いじましく…演じていらっしゃいました(笑)。あと、ものすごーく気になったのが、隠亡掘で伊右衛門が釣りをするシーン…ナマズ、でかすぎませんか!?(笑) 勿論魚籠に入りきらず、垂直に突き立てて大半はみ出たままのナマズ! その後のシーンが結構重要で怖かったりもするのに、ナマズの存在感すごい(笑)。そしてそれを平然と抱えて去っていく伊右衛門様(笑)。
歌舞伎と同じように黒子を使った演出も面白かったです。ネズミさばきがすごい!(笑) あと、「夢の場」の演出も面白かったですね。舞台奥のちょっと高い位置に、切り抜いたかのような横長の空間を作ってて。映画みたいで、あそこだけ現実感が乏しくて、まさに夢の場でした。お岩様が赤子のおくるみを抱いて伊右衛門の前に姿を現すシーンでは、お岩様の着物の裾で陰火が燃えててすごかったです。ラストの雪の中での捕り物のシーンは美しかったですね! 降りしきる雪、大勢の捕手相手に大立ち回りの伊右衛門、そしてラストのラストに舞台端に進み出てくるお岩様が上げる怨嗟の声! もうあれ、しばらく耳について離れなかった! ひたすらの雪、まさに伊右衛門を討ち取らんとする与茂七、きっと正面を見据えたままの伊右衛門、そしてお岩。画としての美しさも相まって、とても印象深いラストシーン。素晴らしかったです。伊右衛門の最期に現れたネズミが影だけというのもいい演出でした、それまで舞台上を駆け巡っていたぬいぐるみのネズミと比べてものすごく恐ろしい。ネズミの影に覆い尽くされた伊右衛門の姿がまるで闇に食われているように見えました。

先日観に行ったゲキシネの「阿修羅城の瞳」も四谷怪談をモチーフの一つにしていたものだから、なんだかとてもタイムリー(笑)。やっぱり日本の伝統的ホラーはいいなあ、大好きだなあこの舞台。とても良いものを観させていただきました。オススメですよ。日本列島すでにだいぶ暑くなってるし、涼を求めてぜひどうぞ!

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プロフィール

水瀬桂子

Author:水瀬桂子
水瀬桂子。
1月21日生まれ。水瓶座のO型。
趣味は観劇、映画鑑賞、読書。旅に出るのも好きです。
おいしいものを食べて、素敵な物語に接していられれば、この上なく幸せです。
三笠書房f-Clan文庫さんより、『妓楼には鍵の姫が住まう-死人視の男-』『妓楼には鍵の姫が住まう-黄泉がえりの人形-』が発売中です。

なお、「水瀬桂子」は「渡瀬桂子」と同一人物です。渡瀬桂子名義の近刊に『少年魔法人形 キスからはじまる契約魔法』『ある日、月の夜に。-わがままな魔女と人狼の騎士-』(ともに一迅社文庫アイリスさんより)があります。水瀬名義は、f-Clan文庫さんが初めてです。こちらは、より趣味っぽい感じのもの用になりそうな予感…。

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