瀬を渡り水の向こうへのナビゲーター   topページ > 観劇 > 正しい教室。  

正しい教室。

2015 - 04/10 [Fri] - 01:30

パルコ劇場で上演中の「正しい教室」を観てきました。蓬莱竜太さん作・演出。蓬莱さんの作品を観るのは今回が初めてだったのですが、とても面白かったです。観終わって「ああ楽しかったー!」とにこにこしながら劇場を出るタイプの話ではないですが、色々考えさせられる感じで。あちこち笑えるシーンもあったんですけど、息苦しくなるくらい追いつめられるシーンもあって。
というわけで感想です。例によってネタバレしますよー。

舞台はとある地方都市の小学校の教室。壁には生徒達が書いた「希望」という書き初めが貼り出されていますが、一カ所だけ空白が。というのも、ある女子生徒が提出してきた書き初めの文字は「希望」ではなく「絶望」だったのです。クラス担任の菊池は女子生徒の親と電話で話し、悩んだ末に書き初めを他のものと同じように貼り出します。
やがてその教室に、何人もの大人が集まってきます。彼らは皆、小学校時代の同級生。これからこの教室で同窓会をやるのです。東京で子供を亡くして故郷に戻ってきた友紀を励ますために菊池が企画した同窓会。見るからに情緒不安定な友紀はなぜか妹を伴って現れましたが、それでも皆、彼女のために明るく振る舞います。しかし、皆が乾杯の杯を掲げたそのとき、招いた覚えのない男が現れました。当時のクラス担任だった寺井です。クラスの誰もが嫌っていた横暴教師の寺井、けれどなぜだかその手には同窓会の招待状が。「どういうこと?」困惑が漂います。誰も寺井なんかとはもう話したくないのです。かつて寺井にラブレターを取り上げられ壁に貼り出されたことのある恵子は、硬い表情で寺井に告げます。「帰ってください、先生」でもそのとき、友紀が言いました。「実は、寺井先生を招いたのは私なの」なぜそんなことを?「私、寺井先生に慰謝料を請求したいの。私の息子は寺井先生に殺されたんだもの」…すると寺井は、ついていた杖を振り上げ、言い返します。「じゃあ俺は、お前らに慰謝料を請求していいのか? 俺はお前達のせいでこんな足になった」…こうして同窓会は、懐かしい思い出を語り合う場から、過去と現在の真実を暴き合う場所へと変貌していったのです…ーー。

同窓会。実は私、出たことがありません。世代的なものなのか住んでる地域によるのか、そもそもクラス単位の同窓会が開かれたことがないんですよ。でも、この芝居を観て「やっぱり同窓会なんて行きたくない!」と思ってしまいました(笑)。
かつて委員長だった、現在は小学校の先生をしている菊池役は井上芳雄くん。見るからに優等生な彼にはぴったりの役かと(笑)。私もかつて委員長で優等生でありとあらゆる手を使って先生から叱られない立場を築いていた人間なので(笑)、このお芝居を観るうえで一番親近感を覚えた役でもありました。生徒からも親からも好かれている素晴らしい先生に見えた菊池が、実は女子生徒の一人(「絶望」の書き初めを書いてきた子)から嘘つきな裏切り者呼ばわりされ、しかもそれをツイッターで広められて絶体絶命の状態にあるとわかるシーンの、彼の追い詰められ方は観ていて辛かったですね…「あなたみたいな教師にはなりたくなかった、あなたみたいな教師に教えられたらこうなるしかないんですよ! 嫌われないように誰にでもいい顔をする教師になるんです!」と言って泣き出すシーン。ああいう感情表現が本当に上手い役者さんですよねえ…ミュージカルが主なのはわかってますけど、もっとストレートプレイでも観たいと思ってしまう方です。いや、勿論彼の最大の強みが歌なのは知ってますが! でもやっぱり、いい役者さんですよね。 
かつてクラスのマドンナだった、現在は息子を亡くしてぼろぼろの友紀役は、鈴木砂羽さん。テレビドラマでお見かけするときは割とちゃきちゃきした元気な役が多い気がするので、今回の情緒不安定な友紀役は新鮮でした。かつて寺井にプールに突き落とされたせいで水に入れなくなった友紀。池で溺れた息子をそのせいで助けられずに死なせてしまったと、寺井に慰謝料を請求しようとする友紀。最初からちょっと無理のある主張だなとは思っていたんですが、今にも泣きだしそうな顔で寺井を糾弾する友紀の姿は痛々しく、お金目当てというよりは息子の死を誰かのせいにしたいんだなという感じで、どういうオチがつくのかなと思っていたら…やがて友紀の言っていることに矛盾があることが指摘され、友紀の現在が観客に対して明らかになっていって。この流れが非常に辛く…「わからない、わからないのよ! わかんなくなっちゃうのよ!」と泣きじゃくり、菊池の脚に「助けて」と言いながら取りすがる姿がなんというかもう…そしてそれを見下ろす、かつて友紀に恋をしていた菊池の表情がまた辛い。本当に途方に暮れた、どうすればいいのかわからないという顔。同窓会って、こういう風に過去の思い出を現在が打ち砕く瞬間がありそうだから行きたくないんですよ!!
かつて恋する少女だった、今は役所勤めで母親の介護に疲れ切っている恵子役は、小島聖さん。この方も芝居上手いですよねえ…何もかも捨ててこの町から出たくて、連れ出してくれる誰かを求めてる女。気さくでどこかあけっぴろげな雰囲気で、でも少女のような繊細さを心の中に残してそうな感じがとても素敵でした。かつてのラブレター貼り出し事件の真相を知ったときの彼女の表情が、またすごく良かった…あと、友紀に「なによ、結婚もしてないくせに! 家でのうのうと過ごしてるくせに!」と罵られた瞬間に、無言で手近なものをぼんぼんぼんぼん投げ始めるあのキレ方が、ものすごく怖い。怖いけど、あの瞬間の彼女の心の中身が、台詞では一切語られないのに観てるこっちには手に取るようにわかる。これは脚本も上手いし、役者さんも上手いからできることですよね。
かつて番長だった、今は奥さんに逃げられて一人でレストランを経営している光役は、高橋努さん。私、この人好きなんです。なんかいい人そうで(笑)。昔やってた携帯電話のCMで、一人で上京する妹を涙ながらに見送るお兄ちゃん役をされてたときのイメージが今でも残ってるんですよ。「SP」とかではすごく怖い役をやってたのに、今でもこの人見るとあのCMの泣き顔が浮かびます(笑)。かつての番長役、似合ってましたね。この人の持ってるなんだかあったかい感じが、役柄にすごくはまってた気がします。
かつてガリ勉だった、今は父親の工務店を継いでる坂田役は、岩瀬亮さん。友紀の話の矛盾に気づいたのは彼。このときの、友紀に順番に確認していく感じが、すごく丁寧な芝居で良かったなあと。徐々に踏み込んで踏み込んで、真実を踏みつける直前ですっと足をそらす感じ。その場の誰もがもう真実の所在に気づいてるのに、誰も真っ向から指摘はしない。その感じがとてもリアルですよね。
友紀の妹、蘭役は、前田亜季ちゃん。わあ、今でもかわいいですね彼女! この蘭役、ものすごく難しいですよね…蘭だけがこの同窓会で部外者で、でも蘭だけが友紀の現在を知っていて。私が蘭だったら絶対居たたまれない! 軽やかに可愛らしく振る舞っていた蘭が、そのうちに友紀が自分にも本当のことを言っていなかったと気づく辺りのシーンから、なんかもうこの人のことが可哀想で! 帰りたいよ私だったら本当に! 泣きたくもなるよ! 
そしてこの人、かつてクラスののけ者だった、今ではヅラな水本ことアパッチ役! 有川マコトさん! もうこの人、存在自体がずるい! 頭部の不自然さが、そしてそれを指摘される度に「何言ってるんですか」と答えるその様がずるい!! 面白すぎる!! そもそも冒頭で、一人で教室にいる菊池のところに現れ、無言でドアを開けては閉めるというあのシーンが面白すぎました。ヅラのせいで、誰も彼がかつてのアパッチだと気づかないという(笑)。そしてそのうちに、一見すると大人になって成功したかのように見えたアパッチが、実は現在ねずみ講にどっぷりはまっていることが明かされて。番長がそれを助けてやると約束するシーンは、この芝居で唯一と言っていいほっこりする場面でしたね。「そんなヅラ、脱ぎ捨てちまえ!」と言われて、ぽーんとカツラを投げ捨てるアパッチの、晴れやかな顔! そして、その後にすぐに「いやこれ高かったから」とかつらを拾いに行く様がまた面白い(笑)。アパッチがヅラを取った途端に、それまで一向に彼のことを思い出せなかった寺井が「おおおー、こいつ、アパッチだよー」とハグしにいくのも面白かったですね。

そして、この人。寺井役、近藤正臣さん。私の中では今でも「龍馬伝」の大殿様のイメージが強い方。生で観るのはこれが初めてだったんですが、まあなんて存在感! 声に満ちる迫力、それでいてどこかユーモラスな立ち居振る舞い、本当に素晴らしい役者さんですね! 寺井はかつて本当に横暴な教師で、そんな彼に対して当時生徒たちが企てたのが「寺井の馬鹿を落とす作戦」、略してTBO作戦。遠足に行った先で彼を穴に落とす作戦…といえば可愛い子供のイタズラに聞こえますが、使用した穴の深さはなんと五メートル以上! 寺井は足を複雑骨折し、二度と体育の授業ができない体になってしまったのです。寺井は現在でもやっぱり横暴で、皆から嫌われていて。寺井みたいな教師には私も教えられたくないですが、でも彼の言い分を聞いていると「…まあ、そうかもしれない」と思える部分もあったりして。菊池が「僕はずっとあなたに嫌われていた、それが本当に辛かった」と告白したシーンで、「ああ、俺はお前が嫌いだった。嫌いな奴はそんな風に扱う。俺とお前、個人のやりとりだからだ」と答えるところとかも、「いやいや教師なんだからそこは個人の感情を表に出しちゃ駄目でしょう」と思いつつ、でもそれはつまり、生徒をちゃんと個人として見ていた、通り一遍じゃなく一対一で対応していたという意味にもとれるような気がして。菊池を窮地に追いやった「絶望」の書き初めの子についても、「こんなの書いてくる奴はしたたかなんだから無視していい。本当に気にしなきゃいけないのは、そんなサインも出せないような普通の子だ」と寺井は断じるわけで。それはやっぱりまぎれもなく、教師としての言葉なんですよね。
そもそも寺井は、生徒達のことをそりゃあ細かく覚えているんです。教えてきた生徒は彼ら以外にもたくさんいたはずなのに、生徒達自身より詳しく過去の何もかもを覚えてる。しかも、当時すでにTBO作戦の詳細を知っていたにも関わらず、それについて生徒を糾弾することもしなかったわけで。本当に、何が正しいのかなんてわからないものなんですよね。それにしても、同窓会のハガキが届いたとき、寺井が何を思ったのかなあと思うと、何やら泣けてきます。しかも、ずっと圧倒的な存在として描かれていた寺井が、ラスト間際で実は痴呆が始まりかけていることが明かされたときの、あの淋しさときたら。あの瞬間の菊池達生徒の表情も良かったですね。そして皆でまずいカレーをもそもそ食べて終わるあのラストシーン。何とも言えない不思議な余韻が残る終わり方。

蓬莱さんの作品はいつか観たいと思っていたんですが、それが井上芳雄とのタッグで観られて非常に嬉しかったです。過去に蓬莱さんと井上くんが組んでやったお芝居も、観てみたかった…観終わって爽快な気分になるお芝居ではありませんが、面白いお芝居ですよ。オススメです。
ところで、あの「絶望」の書き初めは、毎回誰かが書いてるんですよね…公演の度に「絶望」と墨で綴ってる誰かがいるわけだ(笑)。どんな気分なんでしょうね!

 | ホーム | 

プロフィール

水瀬桂子

Author:水瀬桂子
水瀬桂子。
1月21日生まれ。水瓶座のO型。
趣味は観劇、映画鑑賞、読書。旅に出るのも好きです。
おいしいものを食べて、素敵な物語に接していられれば、この上なく幸せです。
三笠書房f-Clan文庫さんより、『妓楼には鍵の姫が住まう-死人視の男-』『妓楼には鍵の姫が住まう-黄泉がえりの人形-』が発売中です。

なお、「水瀬桂子」は「渡瀬桂子」と同一人物です。渡瀬桂子名義の近刊に『少年魔法人形 キスからはじまる契約魔法』『ある日、月の夜に。-わがままな魔女と人狼の騎士-』(ともに一迅社文庫アイリスさんより)があります。水瀬名義は、f-Clan文庫さんが初めてです。こちらは、より趣味っぽい感じのもの用になりそうな予感…。

最新記事

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -

カウンター

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

リンク