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ビッグ・フェラー!

2014 - 06/03 [Tue] - 01:46

世田谷パブリックシアターで上演中の「ビッグ・フェラー」を観てきました。
世田パブで内野さんというと「BLACK BIRD」を思い出します。浦井くんが出てた「ベッジ・パードン」もここでしたね。実は結構好きな劇場です。今回一階席の一番後ろの席だったんですが、ここの最後列の座席って、なんかバーカウンターとかお洒落カフェとかみたいにちょっと高くなってるんですね! 座面とか背もたれはそのままに、高さだけが他と違うという。おかげで観やすかったです。
しかし「ビッグ・フェラー」、重たかった…空気感は結構ドライな部分が多いんですけど、思い返すとずしんとくる。ラストシーンが特に印象深かったです。
というわけで、感想です。ネタバレしますよー。

ニューヨークに住むIRAの活動家達を描いた物語です。舞台上で経過する時間は、1972年から2001年まで約30年。タイトルになっている「ビッグ・フェラー」とは、IRAニューヨーク支部のリーダーであるコステロの呼び名。表の世界ではアメリカンドリームをつかんで経済的に成功したコステロが、聖パトリックス・デイに血の日曜日事件の追悼集会を開いて演説しているシーンから物語は始まります。イギリスへの報復と組織強化を語るコステロ。そしてその翌々日、ニューヨークで消防士として働いているアイルランド系の若者マイケルが、IRAに入るためにコステロに会います。マイケルをIRAに勧誘したのは、イギリス軍兵士を殺してアイルランドから逃亡してきた陽気な若者ルエリ。好条件に恵まれたマイケルのアパートはIRA活動のための隠れ家となり、彼らはそこでパーティーで集めた寄付金を勘定したり、馬鹿話をしたり、恋人と愛し合ったり、クマのぬいぐるみに爆弾を詰めたり…普通の市民としての日常と地続きな、血生臭いIRAとしての日常。けれどやがて、血生臭い方が普通の日常を侵食し始めます。その中で徐々に変わっていく、それぞれの心。はたして彼らは何を失い、何を得て、何を信じ、何を諦めたのでしょう…―ー。

コステロ役の内野聖陽さんは、冒頭のスピーチのシーンからものすごいカリスマ性を発揮していました。観る者の心をぐっとつかんで離さない、あのオーラは内野さんならではですね。うわあ素敵、かっこいい! 彼の人たらしな雰囲気がものすごく好きなんです私。またこのコステロが本当にはまり役で! 人を引き付ける魅力にあふれた男で、でも同時にひどく恐ろしい男。フランク・マカードルに酒呑ませるシーン、怖かった…でも、ちょいちょい面白いところもあったりして。このお芝居、扱ってる題材はかなりヘビーなんですが、意外なくらい笑えるシーンもあるんですよね。マイケルがIRAにふさわしいかどうか審査するためにコステロが色々質問していくシーンで、「君はホモか?」というのがあったんですけど。マイケルが「いいえ!」と答えると、ちょっと間をおいて、「どうして自分がホモでないとわかる?」とコステロが尋ねるんです。マイケルが「女性にぐっとくるからです!」と答えると、「…ぐっとくる(メモメモ)」とコステロが手帳にメモするシーンとか、かなり爆笑しました。ああいう間とか雰囲気の作り方が、やっぱり内野さんならではだなあと。うーん、大好きです内野さん!
コステロはIRAのニューヨーク支部のリーダーなわけですが、実業家でもあり、家族もいて。大量の武器を調達してIRAに流し、寄付金を集めてはその金でまた銃や爆弾を手に入れる。最初は自信と力に満ち溢れて理想を語っていた彼が、年月を経るうちに徐々に理想も力も失っていく様がなんというか辛い…その背景にある彼の家族の崩壊がまた辛い。

ルエリ役の成河くんも素晴らしかったです! 舞台で観るのは実は「イリアス」以来なんですが、この方も本当にお芝居が上手い…ルエリ、すごく魅力的でした。最初はひどく訛っていて田舎者感あふれていて、陽気でお喋りで可愛くてちょっと馬鹿な子という感じだったんですが、そんな彼が実はFBIにIRAの情報を流していて。ルエリがカレルマに向かって実は自分が本当にイギリス兵士を殺したんだと告白するシーン、何気なさを装った台詞の言い方がものすごく胸にきました。うわあルエリ! あなたって人は! ルエリという役は、この物語に出てくるキャラの中でも一、二を争うくらい深いキャラなんですよね…年月を経るうちに全てのキャラが変化していくわけですけど、ルエリの変化が一番すごかった気がします。田舎者が洗練されたNY市民に、何も考えてなさそうな能天気な若者が密告者に。ただの陽気な人かと思えば裏には闇があって、お馬鹿な人かと思えば実はたぶんとても賢くて。また成河くんの演技がすごくいいんですよねえ…恋人を組織に殺されることになって号泣するマイケルをルエリが抱きしめて、優しく頭をなでてあげながら言う言葉が、忘れがたい。「IRAでいたいとは思うけど、一つ嫌なところは、殺しちまうことだよなあ」って。ああルエリ。本当に、あなたって人は。

そしてマイケル役の浦井健治くん。またこのマイケルがねえ…本当にあなた、どうしてIRAになんて入っちゃったの! IRAに入るのがどういうことかわかってるのかと尋ねるコステロに、「僕の人生はおしまいだってこと」と真っ直ぐな目をして答えるマイケルが、辛い! 無口で真面目で物静かな感じの若者が、年月を経るごとに変わっていく様が本当に辛かった!! どうしてあなた、恋人を殺されても平気で組織にいられるの! 「彼女が一体何をしたっていうんだ!」って号泣してたのに、どうして平気でクマのぬいぐるみに爆弾詰められるの! コステロがマイケルに向かって言う「お前は命令されれば何でもやるんだな」という台詞が痛かった…ルエリやコステロが組織の考え方から離反していく中で、マイケルはいつの間にか本当にIRAの兵士になってしまって。ああ辛い。辛すぎる。
でも浦井くんファンにとっては色んな意味で見どころ満載なこの舞台。思いのほか男臭い雰囲気が出てたり、若者時代の純粋な瞳が素敵だったり。それなりに年齢がいってるはずのシーンで、クマのぬいぐるみを手に「クマちゃん! 可愛い♡」の台詞に(可愛いのはあなたですよ!)と心の中で突っ込んだファンは私だけじゃないはず!(笑) アイルランドの民族衣装を着て出てきたシーンでは、「おお、スカート!」とぐっと身を乗り出しかけた瞬間にマイケルがフランクにぼこぼこに殴られて、本気で恐れ慄きました私。ぎゃああ、お衣裳を堪能してる場合じゃなかった! 殴られて引きずられて鞄かぶせられてまた殴られて、挙句の果てには電動ドリルで拷問…コステロが助けに入って鞄はずしてあげたら、顔中血まみれのマイケル…小林勝也さんのフランク・マカードル、本当に怖かった!! ルエリに向かって扉越しにドリル突き刺すシーンとか、シャレにならない!
あ、あと、エリザベスとマイケルのラブシーンも見どころでした(笑)。ノリノリで服を脱ぎ捨てるマイケル! エリザベスが脱ぎ捨てたランジェリーをすはーっと嗅ぐマイケル!(笑) ここの2人のテンションの高さはなかなかすごい(笑)。そして、浦井くんの腹筋が堪能できて幸せでした私。近頃インタビュー記事で見かける彼が割とぷにぷにと丸くなってたので「大丈夫かしら…」と思ってたんですが、ちゃんと鍛えてた! お腹ちゃんと割れてた! 脇腹の筋肉も綺麗に出てた! たとえ白ブリーフに白靴下という多くの女性にとって許すまじな組み合わせの格好でその後しばらく芝居してようとも、もうこの際だから許す!(笑) …ええと、実は私今週末にもう一回観に行く予定なんですが、そっちはかなり前の方の席でして…わあ、ガン見してしまいそう(笑)。ソファに座ってクッション抱えて体隠してる様もなんだか妙に可愛かったですね。

でもやっぱり、このお芝居で一番印象に残ったのは、ラストシーン。もう50代になったマイケルが、支度をして朝食をとってるあの様。あんなに賑やかだったアパートにはもうルエリもコステロもいなくて、マイケルは一人きり。その表情はもう純粋だった若者の頃のものとは全く違っていて。窓から差し込む朝の光はとても綺麗で、ラジオは賑やかに喋ってて、その中で一人黙々とコーンフレークを食べるマイケル。支度を終えた彼がアパートを出ていくと、やがて遠くからサイレンの音とざわめきが聞こえてくる。この朝は、たぶんあの9.11の日の朝。消防士であるマイケルは当然あのツインタワーの現場に赴き、おそらくは巻き添えになって死んでしまったのでしょう。IRAに入ったあの日に「おしまい」になったはずの彼の人生は、それでも30年間様々な感情の渦と共に続き、何人もの人がその間に死にました。彼自身が直接手を下したわけではなくても彼の活動のせいで多くの人がその命を落とし、彼の恋人も仲間も慕っていたリーダーも死に、そして彼自身も別のテロで本当におしまいになって。からっぽのアパートに響くラジオの音、あの怖くてさびしくてどうしようもない雰囲気が、ものすごくずしんときました。うわあ、なんか大変なお芝居を観てしまった! 重い! でも観てよかった!

そしてお芝居の後は、そのまま浦井くんのトークイベントに参加してきました。お芝居は一番後ろの席でしたが、トークイベントはなんと最前列!! 浦井教授による「ビッグ・フェラー」をより理解するためのお講座、通称「浦井大学」。ネタバレ厳禁とのことなので詳しくは書けませんが、本編のシリアスぶりとは打って変わった浦井くんのほややんとした笑顔に癒されました(笑)。「教授でーす♪」のポーズが可愛い! お稽古の話など裏話も色々聞けて、とても面白かったです。
それにしても本当に緻密に作られたお芝居! 役者さんもスタッフさんも演出の森新太郎さんも本当にお疲れ様です! 浦井大学で聞いたお話を思い出しながら二回めの観劇をするのが今から楽しみです。 

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プロフィール

水瀬桂子

Author:水瀬桂子
水瀬桂子。
1月21日生まれ。水瓶座のO型。
趣味は観劇、映画鑑賞、読書。旅に出るのも好きです。
おいしいものを食べて、素敵な物語に接していられれば、この上なく幸せです。
三笠書房f-Clan文庫さんより、『妓楼には鍵の姫が住まう-死人視の男-』『妓楼には鍵の姫が住まう-黄泉がえりの人形-』が発売中です。

なお、「水瀬桂子」は「渡瀬桂子」と同一人物です。渡瀬桂子名義の近刊に『少年魔法人形 キスからはじまる契約魔法』『ある日、月の夜に。-わがままな魔女と人狼の騎士-』(ともに一迅社文庫アイリスさんより)があります。水瀬名義は、f-Clan文庫さんが初めてです。こちらは、より趣味っぽい感じのもの用になりそうな予感…。

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