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ロスト・イン・ヨンカーズ。

2013 - 12/09 [Mon] - 00:53

『ロスト・イン・ヨンカーズ』を観てきました。ニール・サイモン作、上演台本・演出三谷幸喜。ひさしぶりにKAATでの観劇だったので、ついでに中華街も覗いてきましたが、またあちこち店が変わってる気が…新陳代謝の激しい街だ。お土産に皇朝の肉まんとチャーシューまんのセットを買って帰りました。美味しかったです。

さて、『ロスト・イン・ヨンカーズ』。三谷さんの作ではないですが、他の三谷さんの作品同様たくさん笑えて、でも実はテーマはかなり重くて、泣けて…とてもいい舞台でした。これ、他の方が演出されてたらまた全然違う味わいになっていたのではないかなという気もするんですが、本当に素晴らしかったです。
というわけで、感想です。ネタバレしますよー。

1942年、ニューヨーク郊外にあるヨンカーズという街でのお話です。ジェイとアーティの兄弟は、父親のエディに連れられて、ずっと疎遠だったおばあちゃんの家を訪れています。疎遠だった理由はたった一つ、おばあちゃんがとにかく怖い人だから。厳格で、偏屈で、決して笑わらない、氷のような人。あるいは鉄のような人。おまけにおばあちゃんの子供達、つまり2人の叔父や叔母にあたる人達は皆おかしい。ベラおばさんはもう35歳だというのに頭の中身は子供のまま。ガートおばさんは、おばあちゃんの前では息を吸いながらじゃないと話せない。ルイおじさんは、どうやらギャングの手下をしているらしい。ジェイもアーティーも、早く帰りたくてたまりません。
けれど、おばあちゃんの部屋から出てきたエディは、2人に向かってこう言ったのです。「実は父さんは、これから南部に10か月くらい働きに出かけなければいけない。ガンで死んだ母さんの医療費を高利貸しから借りていて、9千ドルも借金があるんだ。だからお前たち、父さんがいない間、ここで暮らしてほしい。…おばあちゃんが許可すればだけど」そして、ついにおばあちゃんが部屋から出てきました。怖い顔で二人を睨みつけ、おばあちゃんはこう言いました。「お前たちがここで幸せに暮らせるわけがない。大体エディ、お前は10年もうちに顔を見せなかったじゃないか。そんなのはもう家族じゃない。なのに困ったら私を頼るのか。この世の中、人は鉄のように強くなければ生きていけないんだ、帰れ」でもそのとき、ベラおばさんが口を開きました。「いいえ、2人はここで暮らすのよ。母さん、もし2人を行かせるのなら、私はここを出ていく。私が出て行ったら、母さんは一人よ。母さんの嫌いな一人ぼっち」こうしてジェイとアーティーは、おばあちゃんとベラおばさんと一緒に暮らすことになったのです…。

ジェイ役は浅利陽介くん、アーティ役は入江甚儀くん。彼らが演じているのは15歳と13歳の子供なんですが、なにせ入江くんの背丈がかなり高いので、最初はちょっと戸惑いました。もしやルイおじさん役の松岡昌宏さんより大きいのでは…でも、話が進むにつれて見慣れてくるというか、ちゃんと子供に見えてくるのが不思議。しかし入江くん、芝居始まってすぐくらいのときに見事に滑ってすてーんとコケてましたが、大丈夫だったのでしょうか…さすが生の舞台、色々あります(笑)。入江くんを初めて認識したのは割と最近やってたドラマ「TAKE FIVE」だと思うんですが、身長高いし声もいいし面白いし、舞台映えしますね。子供役ということもあり、ドラマで見たときとは印象がかなり違ってました。ジェイ役の浅利くんもドラマで何度も見てる人。私の中では割と濱田岳くんと位置づけが近い…小柄で芝居が上手い人という感じで。今回の舞台でも、三谷さんが「頼りになる」とパンフで書いてるのがすごくよくわかるくらい、観客として感情移入もしやすいし、面白い。三谷作品にぴったりの人ですね。ジェイとアーティの兄弟、大好きです。

ベラ役は中谷美紀さん。この方も大好きな女優さんなんですが、生で観るのは今回が初めて。うわあ綺麗! しかも可愛い! 小さい頃に猩紅熱にかかったせいかちょっと頭が弱いベラを、エキセントリックかつキュートに軽やかに演じられていました。ベラが「恋人ができたの! あたし、結婚する!」と言い出した辺りから物語が大きく動いていくんですが、このベラの恋の顛末が悲しい…おばあちゃんに結婚を認めてもらいたくて家族を集め、「あたし、自分の子供が産みたいの!」と言うベラ。母親に結婚を認めてほしいという願いは、やがて冷たく厳しかった母への糾弾へつながっていく。自分は母親のようにはならない、子供たちに優しく温かく接する、自分達兄妹が皆しておかしいのは鉄のように冷たかった母親のせい。でもどうか認めてほしい、そうしたら絶対に一人ぼっちになんてさせないから。けれどおばあちゃんは、ベラを置いて部屋に入ってしまう。その後家出したベラは、結局恋人にふられて帰ってくる。頭の中身は子供なのに体は女としての欲望を感じるのだというベラの告白はおばあちゃんに対するさらなる糾弾であり、そしてついにおばあちゃんは自分が心を閉ざした理由を告白して泣き崩れる。ここのシーンは泣けたなあ…おばあちゃん役は草笛光子さんだったんですが、このシーンにくるまでのおばあちゃんが本当に怖くて冷たい分、おばあちゃんが心の中を吐露した瞬間にものすごくおばあちゃんが可哀想になって。舞台上に一人残されて泣き続けるおばあちゃんを見ながら、私も鼻をぐすぐすさせてました。まったくもって今更言うことでもないんですが、草笛さんは本当に偉大な女優さんですよね。テレビで映画でこれまで何度も見てきましたが、初めて舞台で観る草笛さんの存在感ときたらもう。すごい。素晴らしい。いつまでも女優さんでいてください。
そういえばベラだけが、おばあちゃんに対して「母さんは一人ぼっちが嫌いだから」というようなことを言ってましたね。ヨンカーズに引っ越してきても一人も友達を作ろうとしなかったおばあちゃん。誰に対しても冷たく意地悪なおばあちゃん。なのにその彼女が本当は一人ぼっちが嫌いだということを、頭の弱いベラだけが見抜いている。兄姉が皆して母親から離れていった中、彼女一人がずっと傍にいたんだということがよくわかる台詞でした。

エディ役の小林隆さんは、「国民の映画」のときも素晴らしい役者さんだなと思った方。今回も、ちょっと情けないエディという役を通して人間のおかしさと悲しさを見事に表現されてて。しかもなんだかキュート(笑)。この方大好きだなあ私。二幕冒頭の手紙のシーンで、ベッドの上でなぜこの人はぴょこぴょこ揺れてるのだろうと思ったら、列車に乗ってる表現だったのですね!
ルイ役の松岡さんは、腕が長くて筋肉が大変美しい…いや、すみません、マニアックな見方して(笑)。勿論腕以外の全てもかっこよかったですとも! だってTOKIOの人ですよ! ドラマでもバラエティでも何度も見てますよ! ルイおじさんは、おばあちゃんに対して唯一怯えることがない人。ギャングの手下として働いていて、ジャケットの下には銃を隠していて、でも実は家族想いで優しい。もうこれ、役自体がかっこいいですもん、ずるいよ!(笑) でもおばあちゃんに「ルイ、座れ」と言われると「ハイ」と答えてあっさり椅子に座っちゃうところがちょっと可愛い(笑)。あと、この方よくズボン脱いでたんですが(変態じゃないですよ別に)靴下留めのベルトをきちんとしてるところが、衣装さん細かいな!と思いました。
ガート役は長野里美さん。「息を吸いながら話す」ってどういうことかと思ってたら、そんな感じでしたか(笑)。く、苦しそう…でも面白い(笑)。ガートは出番は少ないんですが、この人がいてくれてよかったなと思いました。おばあちゃんに拒絶されたベラが「誰かあたしに触って、抱きしめて」と言ったとき、ガートが優しく抱きしめてくれるんですよ。家出したベラをかくまってたのもガート。この家族達、実はとても家族想いなんですよね。

ベラの告白から生じた衝撃で、ちょっとずつ変化がもたらされたおばあちゃんの家族。おばあちゃんの表情もそれまでよりはちょっとだけ明るくなっていて、ジェイをからかうような素振りさえ見せていて。この先もおばあちゃんはやっぱり厳格で偏屈なんだろうし、ベラは頭の中が子供のままなんだろうけれど、でもたぶん前よりは色々良くなることもあるんじゃないかなと思わせるラスト。いいお芝居だったなあ…観に行けて本当に良かったと思います。

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プロフィール

水瀬桂子

Author:水瀬桂子
水瀬桂子。
1月21日生まれ。水瓶座のO型。
趣味は観劇、映画鑑賞、読書。旅に出るのも好きです。
おいしいものを食べて、素敵な物語に接していられれば、この上なく幸せです。
三笠書房f-Clan文庫さんより、『妓楼には鍵の姫が住まう-死人視の男-』『妓楼には鍵の姫が住まう-黄泉がえりの人形-』が発売中です。

なお、「水瀬桂子」は「渡瀬桂子」と同一人物です。渡瀬桂子名義の近刊に『少年魔法人形 キスからはじまる契約魔法』『ある日、月の夜に。-わがままな魔女と人狼の騎士-』(ともに一迅社文庫アイリスさんより)があります。水瀬名義は、f-Clan文庫さんが初めてです。こちらは、より趣味っぽい感じのもの用になりそうな予感…。

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