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くれはさんをきかざらせてみよう!(その3)

2011 - 11/27 [Sun] - 17:21

これでおしまいですー。その1、その2を読んでから、追記をどうぞ。
うん、本編にはちょっと入る隙間がないですねえ、この手のシーンというのは。
しかし十夜さん、喋らない…口数の少ない男だなあ、本当に。




「姫さん。どうだ?」
「もうしばし待て。――うむ。よいぞ」
 十夜が目隠しの布を払い、紅羽が歩み出てきた。
 誠二は思わず目を瞠った。
「……わあお。すげえ」
「何じゃ、その目は」
 紅羽が誠二を睨む。誠二はぱちぱちと、小さく手を叩いた。
「いや、さすが姫さん。すっげえ似合う。綺麗だなあ」
「……ふん。当たり前じゃ」
 本当に、そこの椅子に座っている西洋人形にもひけを取らない美しさだった。
 もともと、恐ろしく整った顔立ちなのだ。滑らかに白い肌に、紅もひかないのに赤い唇。長い睫毛に縁取られた大きな闇色の瞳。西洋仕立ての豪奢な黒い着物は、紅羽が持つそれらの美しさを見事に引きたて、より華やかなものに見せていた。
「これ、靴。大きさはたぶん合ってると思うけど、履けるか?」
 誠二が紅羽の足下に踵の高い舶来品の靴を置くと、紅羽は草履を脱いで足を入れた。歩き慣れないのか、少しよろけた紅羽を、十夜が支える。
 そのまま十夜に手をとられ、紅羽は誠二が待つ鏡の前へとゆっくり歩き出した。
 紅羽の艶やかな長い黒髪が、光沢のある黒い布地の上をさらりと滑り落ちる。紅羽が動くと、刺繍の中に散らされたビーズがランプの光を跳ね返して、きらきらと光った。
 紅羽が、金の縁飾りを施した大きな鏡の前に立つ。
 そこに映し出された己の姿に、紅羽が目を見開いた。
 十夜の手を放し、そろそろと着物に指を触れ、右に、左に、少し角度を変えつつ鏡の中の己を見つめ続ける。徐々に、その頬に血が昇る。嬉しそうに、また目がきらきらと輝き出す。
 鏡の前に立ったままぎこちなくその場で回り、裾がふわりと広がるのを眺めて、夢見るような瞳で紅羽が笑った。その顔は、三好屋に着て初めて西洋の着物を試着した若い娘客と何も変わらない。
「はい、姫さん動かない」
「な、何じゃ?」
 誠二は紅羽の後ろに回り、その髪に大きなリボンの形の髪飾りを留めてやった。それは、以前紅羽が手に取ろうとしてできなかった品だ。
「ほら。これも似合うじゃねえか」
「あ……」
 ほう、と紅羽が小さく息を吐いた。
 とても、とても嬉しそうに。
 それから、紅羽がうつむき、小さな声で何か呟いた。
「………ぞ」
「え?」
 誠二が聞き返すと、紅羽はますますうつむき、黙り込む。
 十夜が、棚に置いてあった西洋風の扇子を手に取り、紅羽に渡した。
 すると紅羽は黒いレースを張ったそれをばさりと広げて顔を隠し、
「……れ、礼を言うぞ。死人視」
「え……」
「き、貴重な体験であった。うむ、やはり本を読むのと、実際に着てみるのとでは、違うな」
 いつも通りの、高慢な言い方だった。
 でも、黒レースの扇子の向こうの顔は、きっと真っ赤になっているのだろう。
(まったく、姫さんときたら)
 扇子の向こうに顔を隠しさえすればいいと思っているのだろうか。
 誠二は、大きく息を吐き出すついでのように、あは、と笑って、紅羽の肩を叩いた。
「そんじゃ、貴重な体験ついでに、あっちの桃色も着てみっか!」
「え!?」
「本当はあっちが着てみたかったくせに。素直じゃねえよなあ、姫さんは」
「そっ、そんなことわらわがいつ言った!?」
「まあまあ。大丈夫、夜はまだ長いぜ?」
 誠二はにいっと笑ってそう言った。
 紅羽が思わず扇子を引き下ろし、勢いよく反論しようとして、はっと我に返ってまた扇子を持ち上げる。誠二はその隙に、さっさと壁際の人形の方に歩み寄って、桃色の着物を脱がせにかかる。紅羽が踵の高い靴に苦労しながら、それを追いかける。
 ――深夜の三好屋の中。ありったけのランプや燭台の光に照らされながら。
 たぶん、今の誠二の顔を三好屋の者達が見ても、今の紅羽の顔を吉原の者達が見ても、どちらも等しく驚くに違いない。
 彼らの誰も、二人がこんな表情を浮かべられるとは思ってはいないだろうから。
 死人視と忌まれる男。化け物姫と恐れられる少女。
 畏怖されつつも守り神として崇められ、それがゆえに人として扱われることのない二人。
 だが今だけは、二人ともひどく楽しそうで。
 こんなときも、たまにはあってもいいのだろう。
 無言のまま佇み、二人を見つめていた十夜もまた、常とは違う優しい表情を浮かべている。結局桃色の着物を押しつけられ、目隠しの布の向こうに追いやられた紅羽のために、十夜はゆっくりとそちらへ歩き出した。主の着替えを手伝うために。
 夜は長い。けれど夢は短い。
 それでも、楽しめるなら、楽しむべきなのだ。
                                    《おわり》

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プロフィール

水瀬桂子

Author:水瀬桂子
水瀬桂子。
1月21日生まれ。水瓶座のO型。
趣味は観劇、映画鑑賞、読書。旅に出るのも好きです。
おいしいものを食べて、素敵な物語に接していられれば、この上なく幸せです。
三笠書房f-Clan文庫さんより、『妓楼には鍵の姫が住まう-死人視の男-』『妓楼には鍵の姫が住まう-黄泉がえりの人形-』が発売中です。

なお、「水瀬桂子」は「渡瀬桂子」と同一人物です。渡瀬桂子名義の近刊に『少年魔法人形 キスからはじまる契約魔法』『ある日、月の夜に。-わがままな魔女と人狼の騎士-』(ともに一迅社文庫アイリスさんより)があります。水瀬名義は、f-Clan文庫さんが初めてです。こちらは、より趣味っぽい感じのもの用になりそうな予感…。

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