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殺人床屋。

2013 - 05/28 [Tue] - 01:30

ミュージカル「スウィーニー・トッド」を観てきました。青山劇場にて。
というわけで、感想です。ネタバレしますよー思いっきり。

スウィーニー・トッドはロンドン一の腕前を持つ床屋。輝く銀の剃刀を持ち、鮮やかな手つきで髭を剃る。店の場所はフリートストリートにあるパイ屋の二階。けれど、奇妙なことが二つほど。トッドの店に入った客は二度と出てこない。そして、なかなか肉が手に入らないはずのこのご時世に、なぜだかパイ屋は美味しいミートパイをたくさん売るようになった。一体何が起きているのか? 答えは簡単、床屋が客の喉を剃刀で掻っ切ってはパイ屋の調理場に落とし、パイ屋のミセス・ラヴェットがその肉でパイを作っているから!
事の発端は、彼がまだベンジャミン・バーカーという名前だったときのこと。彼の美しい妻に横恋慕したターピン判事に無実の罪を着せられ、哀れバーカーは島流し。15年ぶりに帰ってきた彼にはもう昔の面影はほとんどなく、ただ復讐だけを胸に抱いて剃刀を握る。しかし、彼の正体に気づいた男を殺してしまったあたりから、ちょっとばかり話はおかしな方向へ。「死体を始末する? もったいない!」と言ったのはミセス・ラヴェット。使えるものは使いましょう、だってこのご時世だもの! 殺したい相手が床屋を訪れるまで、他の奴らを殺して腕を磨いていればいい。いつか奴らはきっと来る。だからそれまでは、ざっくりやってパイ肉生産。ああだが一体奴はいつ来るのか? トッドは今日も、お客の首に深々と剃刀を沈めていくのです…。

ジョニー・デップ主演で映画化もした「スウィーニー・トッド」。実はこのお芝居、私がミュージカル好きになったきっかけだったりもいたします。なんとなく、食わず嫌い的に日本のミュージカルが苦手だったのです。なのに、亜門版「スウィーニー・トッド」の初演のときに、なぜだかふと思い立ってチケットとって。今でもはっきり覚えてます、二階席の一番後ろからの観劇でした。舞台まで遠かったけど、でもたぶんあれが、私が自分の意志で観に行った最初のミュージカル。そしたら…市村正親さん演じるトッドと大竹しのぶさん演じるミセス・ラヴェットに心臓まるごと持っていかれました。すごかった。すごすぎた! 以来すっかり、ミュージカルの虜です(笑)。

冒頭、アンサンブルの方々が「スウィーニー・トッドのバラード」を歌いだすところがとても好きです。何度聞いても鳥肌が立つ。陰鬱なメロディーがヒステリックなほどに高まり、彼らがばっと後ろを振り返ると、そこにスウィーニー・トッドが登場! 市村さんの激しい歌声、そして歌い終わりに彼があげる憎しみと苦悩に満ちた叫び声。ああもう、この冒頭のシーンだけでも、何度だって観たいと思ってしまいます。
市村さんの歌は、いつ聴いても魂の叫びのようで。音程の正確さなんてもうどうでもよくなる、とにかく全身からあふれだすようなパッション! いつだったか嵐の番組にゲストで市村さんが来たときに、ひたすら「ミュージカルに必要なのはパッションだ!」と繰り返してたのを思い出します…うん、市村さんを表現するのに一番ふさわしい言葉ですね。パッション。

でも、今回のトッドは、なんだかちょっとコメディ色が強まってたような…初演、再演、そして今回と3回観てるんですが、なんか前のトッドより陽気な人になってたよ! 彼が復讐したい相手その1のターピン判事やその2のビートルに対して言う「これまで体験したことのないような深剃りをお約束します」の台詞。私の記憶だと、前は割と凄味をきかせた感じで言ってた気がするんですけど、なんか今回は「これまで…(ためる)体験したことのないような…(ためる)そりゃもう深剃りを!」と、ちょっと笑い気味な感じで。この、ための部分で客が笑う笑う。私も笑う。だって、市村さんの台詞の言い方が面白いんだもの! 
とはいえ、後半の破滅へ向かって突き進むトッドの姿は、何度見てもすさまじい。ついに復讐を果たし、けれどついでに殺した相手が死んだはずの妻ルーシーだったことに気づいた瞬間のトッドの表情。ミセス・ラヴェットをオーブンの中に突き飛ばし、オーブンの扉をばたんと閉めてそこにもたれかかる彼の、見開いた目に満ちた絶望がすごい(今回は前から2列目からの鑑賞だったので、表情がものすごくよく見えました)。市村さんは本当に、日本ミュージカル界の、いや演劇界の宝だなあ…素晴らしい。大好きです。

大竹さんのミセス・ラヴェットは、何度見てもチャーミング。がらがら声で喋る下町のおかみさん、といった感じなので品はないんですが、大竹さんが演じると不思議なほどに可愛い。そして面白い。この方の場合も、歌の音程とかどうでもよくなりますね。
復讐しか頭にないトッドに想いを寄せる未亡人のミセス・ラヴェット。人肉パイを考えついちゃうくらいに現実的な頭の持ち主なのに、ラストでトッドが彼女を抱き寄せて踊りだしたときに彼と結婚する幸せな未来しか思い浮かばなかったところが悲しい。でも実はこのシーンは、英語版の舞台の台詞の方が好きだったりいたします(英語版のCDと、コンサート形式で行われた上演のDVDを持ってるのです)。妻の死体を前に動揺するトッドに向かって、英語版だとミセス・ラヴェットは「全部あなたのためにやったのよ、あなたを愛してるの」と叫び、トッドの妻の死体を指差して「それ(sheではなくthat thingというところがすごい…)にあたしみたいにあなたのことを愛することができた!?」とわめくのです。日本語版は、たぶんこのルーシーに対する言及がないような…私が聞き逃してなければですが。コンサートDVDでミセス・ラヴェットを演じてる女優さんは、トッドに抱き寄せられてダンスが始まったところでもちょっと怯えたような自棄になったような顔のままで、大竹さんやヘレナ・ボナム・カーターのとは違うんですよね…恋で未来を見誤る女の破滅も良いですが、破滅を予期しつつも一縷の希望にすがろうとする英語舞台版が私は好き。

でも本当に、初演のときは、トッドがミセス・ラヴェットをオーブンに放り込んだ瞬間心底びっくりしたものです(笑)。全然ストーリーを知らずに観に行ったので、もうラストのこの辺は圧倒されすぎて頭が働かなくなってて、ただひたすら食い入るように舞台を観てたら、円を描きながら大竹さんと踊りだした市村さんが、いきなり大竹さんをオーブンに投げ入れた!! ぎゃー!!!
その後、妻の亡骸を抱きしめてすすり泣くトッドの前に、恐怖のあまり白髪になったトビーが現れたときもびっくりしました。ぎゃー髪白くなってるー!! 剃刀を拾ったトビーの前に、己の首を差し出すトッド。相棒だった剃刀に首を切られてトッドは絶命し…そして、そこに踏み込んでくる警官達。って、トビー! トビー完全に犯人扱い!! 違う違う違う、そこに転がってる死体のほとんどはトビーのせいじゃない!
…このお芝居、よく考えなくても一番可哀想なのはトビーですよね(泣)。武田真治さんの演じるトビーは、メイクや動き方のせいもあって、どこか壊れたおもちゃの人形のようで。うーん、可哀想なトビー。

アンソニー役は、城田優くん、田代万里生くんときて、今回は柿澤勇人くん。毎回違った味わいのアンソニーですが、柿澤君のアンソニーもピュアでお馬鹿でよいですね。ジョアンナとの「うん、君たちとりあえずちょっと落ち着いて相手の話聞こうか!」な勢い込んだ歌の掛け合い、大好きです(笑)。立ち方が時々内股なのがちょっと気弱な感じで、それはそれでアンソニーな感じ。しかしそれにしても、柿澤くんはいい体をしている…ジョアンナとのラブシーンでばさばさと彼が脱いだとき、思わず胸筋腹筋に大注目(笑)。秋のロミジュリが楽しみです。

「スウィーニー・トッド」は今回でファイナルらしいですが、もっと観たいというのが正直な気持ち。市村さんと大竹さん以外のキャストはちょっと想像できないので、このままでまたやりましょうよ! そしたら絶対また観に行ってしまいますよ。
カーテンコールで市村さんと大竹さんが、最初「このアマ…」「あたしのこと殺しやがったなこの野郎…」的に睨み合った後、わーっと駆け寄って熱烈に抱き合うところとかもまた観たい! つくづくハマり役ですよねえ…ああ、本当に大好きですよ。
 
でもね、できれば次は、青山劇場じゃない方がいいかな…私、どうもこの劇場の音響が合わなくて。歌詞が聞き取れないー、歌詞知ってるからいいけどでもどうせならちゃんと聞きたいー。いつ行っても、どうも駄目なんですよねここの劇場…私の耳が悪いのか、劇場が悪いのかはわからないんですが。いや、でも一緒に行った友人も聞き取りづらいって言ってたしー! 次は他所がいいですー…。

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プロフィール

水瀬桂子

Author:水瀬桂子
水瀬桂子。
1月21日生まれ。水瓶座のO型。
趣味は観劇、映画鑑賞、読書。旅に出るのも好きです。
おいしいものを食べて、素敵な物語に接していられれば、この上なく幸せです。
三笠書房f-Clan文庫さんより、『妓楼には鍵の姫が住まう-死人視の男-』『妓楼には鍵の姫が住まう-黄泉がえりの人形-』が発売中です。

なお、「水瀬桂子」は「渡瀬桂子」と同一人物です。渡瀬桂子名義の近刊に『少年魔法人形 キスからはじまる契約魔法』『ある日、月の夜に。-わがままな魔女と人狼の騎士-』(ともに一迅社文庫アイリスさんより)があります。水瀬名義は、f-Clan文庫さんが初めてです。こちらは、より趣味っぽい感じのもの用になりそうな予感…。

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