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くれはさんをきかざらせてみよう! (その2)

2011 - 11/27 [Sun] - 17:14

小話の続きです。その1を読んでから、追記をどうぞー。




「そんで姫さん、どれを着てみる?」
「え!?」
 誠二の言葉に、紅羽が慌てたように振り返った。
「き、着るとは!?」
「だから、試着だって。そこの着物。着てみてえんだろ? そっちの隅の、布で仕切ってあるとこさ、試着用の場所だから」
「い、いやっ、わらわはっ」
「あ、興味ない? なら無理には勧めねえよ。まあ、その気がないならしょうがねえよな」
「……う」
「けど、せーっかく着物に似合う髪飾りも選んどいたんだけどなあ」
「え」
「靴もちょうど可愛いのが入ったばっかでさ、リボンとビーズがついててきらきらで。姫さんが気に入るかと思ってたんだけどなあ」
「………………そ、そなたがそこまで言うのなら」
 ばさりと紅羽が扇子を広げて顔を隠し、ぼそぼそと言う。隠しきれなかった耳がすっかり赤くなっているのを見て、誠二は勝ったと思った。
「よーし、そんじゃ、どれにする?」
 誠二は、三体の等身大人形が着ている西洋の着物を眺めた。
 右の人形が着ているのは、深い緑を基調とした着物だ。暗緑色のレースを襟と袖口にあしらい、全体的に落ち着いた印象だが、きゅっと細く絞られた腰からふわりと広がった裾にかけて明るめの黄と緑の糸で細かな植物模様を刺繍してあるのが華やかで綺麗だと思う。
 真ん中の人形が着ているのは、光沢のある黒い布をたっぷり使って作った豪奢な着物である。襟や肩口、袖口には差し色として赤いリボンやフリルが使われ、腰から下は幾重にも重ねた布や薔薇模様のレースで膨らませてある。
 そして、左の人形が着ているのは、胸元に小さな花飾りをあしらった淡い桃色の可憐な着物だ。真っ白なレースやフリルで飾りつけられた様はまるでクリームや果物をたくさん使って作った西洋菓子のようで、なんとも甘く可愛らしい色合いである。
 どれも綺麗だとは思うが、普段紅羽が着ている着物に一番近いのは真ん中の黒いのだ。
「やっぱ姫さんが着るならこれか」
「えっ」
 誠二が真ん中の人形が着ている着物を脱がせ始めると、はじかれたように紅羽がこっちを見た。
「『えっ』て?」
「いや、その……」
 紅羽が桃色の着物に目をやる。その胸元の花飾りを、袖口から覗く何段もの白いレースを見つめ、また誠二の手元に目を戻す。
「……もしかして、そっちの桃色のがいいのか?」
「い、いやっ、それでよい! よいのじゃ、わらわはその黒いのが着てみたいぞ!」
「そうか? なら、これ。着方、わかるか? なんなら手伝うけど」
「要らぬ! 一人で着られるわ、この程度!」
 なぜだか妙に早口にそう言って、紅羽が誠二の手元からさらうようにして黒い着物を受け取った。そのまま、目隠しの布向こう側へと消える。ごそごそと目隠しの布が内側から動き、やがて衣ずれの音が聞こえてきた。
 本当は、西洋の着物を着るときにはそれに合わせて洋風の下着をつけた方がいいのだが、さすがに紅羽に下着を手渡すのはためらわれて、誠二はそのまま目隠しの布が動くのを見守った。
 ごそごそごそ、と布が蠢く。ばさばさと着物をひっくり返すような音がして、また布が動く。ばさり、ごそごそごそ、ばさ、ばさ――そして静寂。
 布越しに伝わる困惑の気配。
「姫さん?」
「………」
「あのさ姫さん、西洋の着物なんて着たことねえんだろ? わかんねえなら、手伝うけど」
「要らぬ!」
 間髪入れず返る声。
「着方なら知っておる。要らぬ世話じゃ」
「本で読んだだけじゃねえのか?」
「………」
 今度は返事はなく、再びばさばさごそごそと目隠しの布が動きだす。むきになったような気配が伝わってくる。
 誠二と十夜はなんとなく顔を見合わせる。誠二は意味もなくへらりと笑って肩をすくめ、十夜は無表情のまま再び視線を目隠しの布の方に戻す。
 しゅっと裾を払うような音がして、どこか安堵したような気配が布の向こうに漂い――そして再び静寂。しばらくして、ぎこちなく目隠しの布が動き、再び困惑と焦燥の気配。
「姫さん?」
「………」
「おーい、姫さん? どした?」
「………………………――十夜」
 ややあって、目隠しの布の向こうから、紅羽が十夜を呼ぶ声が聞こえた。
「手伝え、十夜。入ってこい」
 十夜が無言で動き出し、目隠しの布の向こうに消える。
 ぼそぼそと紅羽が十夜に何か言い、十夜が無言のまま紅羽の着替えを手伝い始める気配がする。どうやら、背中に幾つも並んだ小さな釦が紅羽一人ではうまく止められなかったらしい。
(ていうか、何で俺が手伝うのは駄目で、十夜はいいんだよ?)
 それは確かに十夜は普段から紅羽の身の回りの世話をしているわけだから、着替えの手伝いもしているのかもしれないが。作り物の両手とはいえ、十夜の手は相当器用に動いているようだから、支障はないのかもしれないが。
 なんとなく釈然としない気分で目隠しの布を見やり、誠二はぐしゃりと己の長い髪をかき上げる。まあ別にどうでもいいことではあるのだが。

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プロフィール

水瀬桂子

Author:水瀬桂子
水瀬桂子。
1月21日生まれ。水瓶座のO型。
趣味は観劇、映画鑑賞、読書。旅に出るのも好きです。
おいしいものを食べて、素敵な物語に接していられれば、この上なく幸せです。
三笠書房f-Clan文庫さんより、『妓楼には鍵の姫が住まう-死人視の男-』『妓楼には鍵の姫が住まう-黄泉がえりの人形-』が発売中です。

なお、「水瀬桂子」は「渡瀬桂子」と同一人物です。渡瀬桂子名義の近刊に『少年魔法人形 キスからはじまる契約魔法』『ある日、月の夜に。-わがままな魔女と人狼の騎士-』(ともに一迅社文庫アイリスさんより)があります。水瀬名義は、f-Clan文庫さんが初めてです。こちらは、より趣味っぽい感じのもの用になりそうな予感…。

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