瀬を渡り水の向こうへのナビゲーター   topページ > スポンサー広告> 小話 > くれはさんをきかざらせてみよう!(その1)  

スポンサーサイト

-- - --/-- [--] - --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

くれはさんをきかざらせてみよう!(その1)

2011 - 11/27 [Sun] - 17:10

というわけで、「妓楼には鍵の姫が住まう」の小話を書いてみたのですが。
…やってみて思い出したのですが、そうえいば私、短編を書くのがものすごく苦手でした。書けば長くなる症候群を患っていたのでした。…あんまし小話じゃない…。
なので、ちょっと分けて載せてみようかと。
ご興味のある方のみ、追記でご覧下さいませ。

あ、あと、睦月ムンクさんのサイトで、素晴らしすぎる宣伝イラストが見られますよ!ブログのところに、紅羽と誠二のイラストが! なんと描きおろしで!! ぎゃー、誠二がかっこいいし、紅羽可愛いしー! 十夜もいますよ、可愛いの(笑)。
実は私が学生時代にお世話になった先生と、睦月さんの大学の先生とは、同一人物だったのです…私、その先生の授業があまりに面白くて、江戸怪談の研究なんぞしていたのですが。そーいや京都の大学からうちの大学に教えに来てた人でしたよ。うわあ、世の中って意外とせまい。



「ほ、本当に、よいのかえ?」
「だから、いいって言ってんじゃねえか」
「しかし……わらわは、その」
 珍しく歯切れの悪い口調で紅羽が言う。
 誠二はひょいと肩をすくめ、紅羽の背に手を当てると、そっと前に押し出した。
「いいからさ、ほら。今日は好きなだけ見ていいし、触っていいんだぜ」
 誠二が紅羽を押し出した先には、等身大の三体の人形。
 顔こそのっぺらぼうだが、その身にまとうのはリボンやフリルで華やかに飾られた西洋の着物だ。手には造花の花束や帽子を持ち、足元には踵の高い靴も置いてある。
 舶来品を扱う大店、三好屋の店内である。
 といっても、店が開いている時刻ではない。壁際に置かれた英吉利製の柱時計が示す時刻は二時。昔からのこの国の言い方で言えば、草木も眠る丑三つ刻というやつだ。勿論、三好屋の者達も母屋の方で皆眠りに就いている。
 いつも客で賑わう三好屋の店内には今、誠二と紅羽と十夜の三人しかいない。
 ありったけ灯した燭台やランプの放つ光が照らし出すのは、きらびやかに美しい舶来の品々。
「まったく……昼間、そなたが帰った後に、妙なものが落ちていると思ったら」
 紅羽が袂から藍色の千代紙を取り出し、呟く。
 やっこの形に折られたそれは、誠二が昼間紅羽の部屋を訪れた際に置いていった文だ。折り目を開けば中の文字が読めるようになっている。
「『丑三つ刻に、三好屋へ』――一体何事かと思ったのじゃが、まさかこういう話とは」
「ああ、ごみと間違われて捨てられなくてよかったぜ」
 へらりと誠二は笑った。
 本当にちょっとした思いつきだったのだ。
 以前、紅羽が三好屋にやってきたときに、店の品に見惚れていたことを思い出して。一度くらい、ちゃんと三好屋の商品を見せてやりたくなったのだ。
 だが、紅羽のことだ。普通に店がやっているときに連れてきたところで、他の客や三好屋の者達の見ている前では、素直に楽しんでくれるとはとても思えない。
 たぶん紅羽は、彼女を見て畏れる者達の前で、化け物姫として以外の振る舞いを見せることはない。
 もう、そういう風にしかできなくなっているのだ。今までずっと、そうしてきたから。
(けど、本当は姫さんだって、普通の女の子が好きなものに興味津々のくせに)
 その証拠に、今こうしてあらためて三好屋にやってきた紅羽の目は、きらきらと輝いていた。常日頃の妖艶さはすっかりなりを潜め、仏蘭西製のチェストの上に並べられた髪飾りを手に取ろうか、それともその隣の英吉利製の飾り棚に置かれたレース飾りを見ようか、はたまたあっちの着物を先に見るべきかと、きょろきょろしまくっている。興奮のせいかほんのり上気した頬が、なおさらそんな紅羽を娘らしく可愛く見せていた。
「い、言っておくが、わらわは別にこんな品々にはたいして興味はないのじゃぞ。ただ、我が下僕が強いて機会をもうけてまで、わらわにこれらを見せたいと思ったのであれば、主としてそれに応じてやらぬこともないのじゃ。その程度の寛大さは持ち合わせておるゆえにな」
「へえへえ、そーですか。ていうか誰が下僕だよ」
「そなたじゃ、死人視。いい加減覚えよ、愚かな下僕め」
「だから死人視って呼ぶなっつってんだろが。あと馬鹿者呼ばわりもよせ、言っとくけど俺の方が年上なんだからな、三つもな!」
「たかが三つの年の差以外に誇るものがないとは、十八にもなって悲しい男じゃの」
 容赦なく誠二をけなしつつも、紅羽は布張りの椅子の上に置かれた西洋人形を熱心に覗き込んでいる。見るもの全てが珍しくて楽しくてたまらないという顔で。
 そんな紅羽を見ていると、ついつい微笑ましい気分になってしまって、誠二はそれ以上言い返すのをやめた。
 あちこち歩き回る紅羽を、十夜はいつものように人形のような無表情で見守っている。けれど、その瞳がいつもより心なしか柔らかな光を浮かべているように見えるのは、温かなランプの光が映り込んでいるからというだけではないはずだ。
 ……いいと思うのだ。たまにはこういうときがあっても。
 たとえ百人の人間が、紅羽を指して化け物だと言おうとも。守り神だと言おうとも。
 今ここにいる誠二も十夜も、そうでない紅羽の姿を知っている。
 ただの少女としての紅羽を、知っているのだから。

 | ホーム | 

プロフィール

水瀬桂子

Author:水瀬桂子
水瀬桂子。
1月21日生まれ。水瓶座のO型。
趣味は観劇、映画鑑賞、読書。旅に出るのも好きです。
おいしいものを食べて、素敵な物語に接していられれば、この上なく幸せです。
三笠書房f-Clan文庫さんより、『妓楼には鍵の姫が住まう-死人視の男-』『妓楼には鍵の姫が住まう-黄泉がえりの人形-』が発売中です。

なお、「水瀬桂子」は「渡瀬桂子」と同一人物です。渡瀬桂子名義の近刊に『少年魔法人形 キスからはじまる契約魔法』『ある日、月の夜に。-わがままな魔女と人狼の騎士-』(ともに一迅社文庫アイリスさんより)があります。水瀬名義は、f-Clan文庫さんが初めてです。こちらは、より趣味っぽい感じのもの用になりそうな予感…。

最新記事

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

カウンター

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

リンク

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。