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アルカディア!

2016 - 04/25 [Mon] - 01:23

シアターコクーンで上演中の「アルカディア」を観てきました。映画「恋に落ちたシェークスピア」でアカデミー賞脚本賞を獲ったトム・ストッパード作、演出は栗山民也。キャストといい、話の構成といい、演出といい、何もかもが素晴らしかった! 観に行って本当に良かったです。というか、もう一回くらい観たかったー! 私、このお芝居大好き!
というわけで、感想です。ネタバレしますよー。

19世紀初頭、英国貴族の荘園シドリー・パークの御屋敷で、御年13歳のお嬢様トマシナは、家庭教師のセプティマスに尋ねました。「ねえ、セプティマス。『肉欲的な抱擁』ってなあに?」天才的な頭脳を持つお嬢様の突飛な質問に、慌てず騒がずセプティマスは答えました。「それは、牛フィレ肉を抱きしめることですよ、お嬢様」…勿論、そんなはずはありません。トマシナは、屋敷に滞在中のミセス・チェイターが東屋で何者かと肉欲的な抱擁を交わしているのを見たという庭師の話を立ち聞きしたのです。実は、そのときミセス・チェイターと肉欲的な抱擁を交わしていたのは他ならぬセプティマス。というわけで、セプティマスのもとには、ミセス・チェイターの夫のエズラ・チェイターからの決闘状が届いてしまいます。が、弁の立つセプティマスはあっという間にチェイターを言いくるめてしまうのでした。そこへ、シドリー・パークの女主人であるレディ・クルームが現れます。レディの目下の関心事は、シドリー・パークの庭園の改築工事。庭園設計士ノークスの出してきたプランがどうにも気に入らないのです。素敵な東屋をつぶして、新築の廃墟である《隠遁者の庵》を造るなんて! 奇妙な中国風の橋を造るというのも気に入りません。レディにとって、このシドリー・パークはまさにアルカディア(理想郷)そのものなのです。大人達が狩りに出たその隙に、トマシナはノークスの設計図にこっそり悪戯書きをしました。《隠遁者の庵》に、そこに住む隠遁者の絵を書き足したのです。
さて、それから200年の時が過ぎ、現代のシドリー・パークを、2人のバイロン研究家が訪れます。1人はハンナ、彼女の研究テーマは「シドリー・パークの隠遁者」が何者かということ。もう1人はバーナード、彼はシドリー・パークを訪れていたバイロンが、同時期に屋敷に滞在していた詩人のエズラ・チェイターを殺してしまったという仮説を立証するものを求めています。庭園の設計図に描かれた隠遁者の絵はトマシナの落書きのはず、けれどハンナは隠遁者が間違いなく存在した証拠を幾つも見つけていました。では、隠遁者の庵に住んでいたというその男はいったい何者なのでしょう? チェイターを殺したのは本当にバイロンなのでしょうか? 200年の時を挟みながら、同じ屋敷で展開される二つの物語。それらはやがて混ざり合い、一つの真実へとたどり着くのです……――。

いやーもう、セプティマス役の井上芳雄くんが素敵すぎて!! 観る度惚れ直させてくれる役者さんですが、今回もまた惚れ直してきました! 色んなインタビューで井上くんが「セプティマスは下半身の男」というようなことを言っていたのでどういうことかと思っていたのですが、まあ、確かに…かなりきわどい台詞もばんばん言うし、実際女の人とあっちこっちでそーゆーことしてるみたいだし…でも、とにかく品のいい彼が演じると、それがかえって魅力的に見えてくるこの不思議(笑)。いや実際、魅力的な男なんですよ、セプティマス。頭が良くて、弁が立って、毒舌気味で、上品だけどセクシーで、そしてペットの亀にも愛を注ぐ男(笑)。「ああん、プルータスゥ♡」とだだ甘な声で亀に呼びかけキスする様がなんかとてもおかしい(笑)。こんな男性が家庭教師だったら、そりゃあお嬢様も好きになっちゃうよなあ…。
トマシナお嬢様を演じていたのは、趣里ちゃん。可愛かったー! よくテーブルの上に乗ったり寝そべったりしてましたが、それがまたとても可愛い。肉欲的抱擁とは何かという質問から男女の性行為についてセプティマスから聞き、テーブルの上でじたばたしながら「嫌あぁああ~!」と叫ぶのがなんというか大変愛らしく(笑)。それに対してセプティマスが「お『嫌あぁああ~!』でもそれが事実です」と言うのがまた大変面白かったです。この2人のやりとりはどれもすごく良かったですね、「もー、実際にそういうことをすることになったとき、絶対あなたのこと思い出しちゃう!」「それは光栄ですね」とか。全般的に会話がテンポ良くて面白くて。ストッパードさんの戯曲もいいのでしょうし、小田島恒志さんの翻訳も素晴らしいのだと思います。
他の19世紀パートの人の中では、レディ役の神野三鈴さんがさすがの存在感でした。この方も大好きな女優さんです。あと、チェイター役の山中崇さんがキュートだったなあ…拳を口に押し当てて「アーッ!」と叫ぶ様が可愛くて。

現代パートでは、ハンナ役の寺島しのぶさんとバーナード役の堤真一さんのやりとりがとても面白かったです。寺島さん、とっても素敵でした。ハンナは、屋敷の長男のヴァレンタインからは「僕のフィアンセ」と呼ばれ、バーナードからも誘われ、ヴァレンタインの弟のガスからも好意を持たれるんですが、そんなモテモテの状況に何の違和感も感じさせないのがすごかったです。見た感じは髪も短くて、服も適当で、女っぽさのかけらもない研究者気質の女性なんですが、格好からではなく、内面からにじみ出てくる女らしさがあって。こういう感じが出せるのは、やっぱり寺島さんだからという気がします。
堤さんのバーナードも、うざいながらもチャーミングな男性で。自分のたてた仮説に都合のいい事実しか拾わないバーナードは研究者としては大変駄目なタイプですが、堤さんが演じてるからか、なんだかとても愛らしく見えて(笑)。バーナードがハンナにキスをねだって、自分のほっぺたを「ここ、ここ!」と指差すときの仕草が可愛かったんですよ! そして、それに対してものすごく嫌そうな顔で自分の手のひらにキスし、それをバーナードの頬に押し当てようとするハンナが面白い(笑)。で、バーナードは当然のことのように、それをほっぺたで受けるのではなく、ハンナの手のひらの真ん中にちゅっとキスしてみせるという、この完璧すぎる流れ! 素晴らしすぎる!(笑)
そして、ヴァレンタイン役の浦井健治くん。エキセントリックな役でしたねー(笑)。ぼさぼさ頭で、花粉症なのか鼻炎なのか鼻水ずるずるで、猫背で、いきなり叫んだりして。「ちょっとLっぽい要素もある」とは聞いてましたが、確かに歩く姿や雰囲気がちょっとデスノートのLに似てました。ヴァレンタインも天才で、そしてペットの亀を愛する男(笑)。セプティマスとは違って、小さな男の子みたいな可愛がり方でしたけどね。ていうか、亀の持ち方が、ほとんどプラモデルを振り回す小学生男子でしたよ(笑)。自分の求める証拠を見つけたバーナードが喜びのあまりヴァレンタインを押し倒して首筋にキスするシーンがあったんですが、その後ヴァレンタインが何度も首を拭い、拭った指やらタオルやらをいちいち嗅ぐ様が面白かったです。

現代パートで語られる、チェイター殺害についてのバーナードの仮説。当時、バイロンはこの屋敷に滞在していた(これは事実)。チェイターはバイロン宛てに決闘状を出していた(いや、バイロン宛てじゃなくてセプティマス宛てですから!)。チェイターの詩集に対してバイロンは書評を書いてこき下ろしてた(うん、それもセプティマスがやったこと)。チェイターは詩集を二冊出した後はすっかり文壇から姿を消してる(え、そうなの?)チェイターの決闘状等、当時の手紙三冊がはさまれた本はバイロンの所有だった(セプティマスから借りてた本をバイロンが持ってっちゃったからね!) 19世紀パートと現代パートを交互に見せられる観客は、バーナードの仮説の間違いを知りつつも、まだ舞台上で語られていない部分について推理していくような感じで観ていくことになります。この構成がまた素晴らしい。わくわくしましたもの、チェイターの死の真実は何なんだろうって思いながら観るの。
というかこのお芝居、全てを語るわけではなく、想像の余地を残して終わるというのがとても良いですね。隠遁者の正体はセプティマス、けれど彼がなぜそうなってしまったのかははっきりとは語られない。それはたぶんお嬢様が亡くなった火事が原因なのだろうなとは思うけれど。その火事も事故か故意かはわからない。まだ若いのに頭はほとんど白髪になり、気のふれたような様子でひたすらに計算ばかりしていたという隠遁者。あのセプティマスがそんな風になってしまった理由を考えると、なんだかものすごく切ない。お嬢様が証明しきれなかった計算を彼が引き継ごうとしていたのかなと思うと、なんかもう泣けてきてしまうくらい。

お嬢様がたどり着いた摂理は、「万物はいずれ冷えていき、そしてその熱は二度とは戻らない」ということ。つまり、この宇宙もいずれは冷えて死んでいく。それを告げられて絶望しかけたセプティマスに、「踊ろう!」と言ったトマシナお嬢様。ワルツを踊る2人と同じ空間で、200年の時を経て踊るのはガスとハンナ。セプティマスとトマシナの熱はもうこの世には残っていなくて、ガスとハンナが存在した熱もいずれは消える。けれど、今この瞬間は確かに存在する、2人の熱量。舞台中央で燃える蝋燭の熱だっていずれは尽きて消えるけれど、それでもこんなにも明るく美しい。彼らの熱もまた同じ。そこに確かに存在するし、とてもとても美しい。
素晴らしいラストシーンでした。あああ、やっぱりもう一回観たかった…!!

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プロフィール

水瀬桂子

Author:水瀬桂子
水瀬桂子。
1月21日生まれ。水瓶座のO型。
趣味は観劇、映画鑑賞、読書。旅に出るのも好きです。
おいしいものを食べて、素敵な物語に接していられれば、この上なく幸せです。
三笠書房f-Clan文庫さんより、『妓楼には鍵の姫が住まう-死人視の男-』『妓楼には鍵の姫が住まう-黄泉がえりの人形-』が発売中です。

なお、「水瀬桂子」は「渡瀬桂子」と同一人物です。渡瀬桂子名義の近刊に『少年魔法人形 キスからはじまる契約魔法』『ある日、月の夜に。-わがままな魔女と人狼の騎士-』(ともに一迅社文庫アイリスさんより)があります。水瀬名義は、f-Clan文庫さんが初めてです。こちらは、より趣味っぽい感じのもの用になりそうな予感…。

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