瀬を渡り水の向こうへのナビゲーター   topページ > 2015年12月30日  

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ツインズ。

2015 - 12/30 [Wed] - 19:25

年末ですね。今年の観劇納めは、長塚圭史さん作・演出の「ツインズ」でした。パルコ劇場にて。…あれ、パルコ劇場といえば、「オレアナ」も観たのに感想書いてないな…「オレアナ」もすごーく面白い作品でしたよ! 実は最前列で観たんですが、濃密な台詞劇で、時間の経過と共に逆転していく2人のキャラクターが本当に面白くて。ちなみに私は田中哲司さんの方に完全に感情移入してました(笑)。これ、女性は普通、志田未来ちゃんの方に共感するのかな…でも、私は無理だった…あの可愛い顔を引き裂いてやりたいと心の底から思いながら観てました(いや、志田未来ちゃんは大好きなんですよ! 生で見てもやっぱり可愛かったし、芝居も素晴らしかったです)。
で、「ツインズ」です。これも、本当に面白かったです。なんというか、不思議な手触りのお話。決して楽しい話ではないはずなのに不思議なほどあちこちで笑えて、絶望的な状況のはずなのに不思議なほど明るいキャラクター達が語る言葉は決して受け入れがたいものではなく。観に行って本当に良かったです。
というわけで、感想です。ネタバレするので、これから観るという方はぜひ観劇後にご覧くださいませ。

といってもこの話、とにかくあらすじが書きづらい…全てのことについてはっきりした説明なしに進むので、台詞や状況からあれこれ推測したり想像したりするしかないんです。舞台は海辺の家。そこに複数の男女がいる。彼らはほとんどが親戚同士、敬老の日に合わせて、この家に住むもはやほとんど意識もない老人の言葉を聞くために集まったらしい。老人の息子であるハルキは、金が欲しくて焦っている様子。なぜかといえば、その金でなんとか娘のイラを外国にやりたいから。どうも日本はもう色々と駄目な状況らしく、水も食べ物も汚染されているようで、国としての機能もほとんど失いかけているような感じ。でも、この海辺の家で暮らすトムとローラだけはなぜかそんなこと意にも介さず、海で泳ぎ、異様なほどに大きく育った貝やら信じられないような色になったタコやらを平気で獲り、以前と変わらぬ様子で日々を送っている。老人の孫であるタクトはそんな彼らを悪夢でも見るかのような目つきで眺め、タクトの妻のユキは双子の赤ん坊を抱えて苛々と過ごし、ハルキの兄のリュウゾウは最愛の妹であるエリコが消えた海の水をちびちび飲んで海に還ろうとしている。滅亡しかけの国の中、まるでここだけは何も変わらぬ日常があるかのような海辺の家。それはまるで死の寸前に見る夢のよう。もしかしたら、これは今まさに死の床にある老人の夢の中なのかもしれない。あるいは、眠り続ける双子の赤ん坊の夢なのかもしれない……――。

ハルキを演じたのは、古田新太さん。相変わらず素晴らしい存在感! この方が舞台に立ってるのを見るだけでなんだか嬉しい(笑)。ハルキは前半と後半で別人のようになるキャラ。前半の彼はとにかく焦っていて、苛立っていて、常にバットを手にしている。壊れてしまった世界の中、駄目オヤジが一念発起して娘だけは守ろうとしている感じ。そして後半になるといきなり誰とでも親しく話せる温和なオヤジに生まれ変わるという。難しい役ですよねえ。
イラを演じたのは、多部未華子ちゃん。これまた大変難しい役で。初めは普通の女の子に見えたんですが、実は結構壊れてる。苛立ちと諦めを胸の中に抱えながら、でもそれを周りの人には見せずにいる。双子の赤ん坊を海に流してしまったり、眠る老人を罵ったりと、一人でいるときと他の人といるときの落差が激しい。でも、誰彼かまわずバットを振り回して暴れるハルキの指を実に平然と包丁で切り落として見せたときには、もうどうすればよいのかと思いましたよ! 笑えばいいのか怖がればいいのか、いや結局笑ってしまったんですけど! 「だって、うるさいんだもん」って…今ぽーんと飛んだのあなたのお父さんの人差し指ですよ!? まあ、これをきっかけにハルキは海辺の家の人々と打ち解けるようになるんですが。多部ちゃんも大好きな女優さんの一人です。「大奥」とか本当に好きだった…生で見るのは今回が初めてでしたが、やっぱりいい女優さんですね。多部ちゃんの声が特に好きなんです。テレビや映画だけじゃなく、舞台でももっと観てみたい。
リュウゾウを演じたのは、吉田鋼太郎さん。古田さんと鋼太郎さんが2人で舞台上にいるのを見られるこの幸せといったら(笑)。この2人の掛け合いがもう本当に面白くて。鋼太郎さんの声も大好きです。リュウゾウがエリコへの想いを語るシーン、すごく好き。海に消えたエリコ、今も波間を漂っているというエリコ。でもリュウゾウは泳げないから、エリコが消えた海の水(実際はトムがブルーハワイに塩を混ぜて出しているだけらしいですが、信じればそれは海水になるのだそうで)を飲んで魚に近づき、いつか自分も海に消えるつもりだという。海の中で細胞レベルまで分解されたリュウゾウはいつか同じく分解されたエリコの細胞とめぐり会えるかもしれない。終始明るいリュウゾウですが、やっぱり彼の心の中にも絶望はあって、エリコに会いに行くためとはいえ死というものへの渇望があって。そんな語りを綱太郎さんの声でされると、もうなんか否応なしに心が動かされる気がして、ひたすら舞台に見入ってしまいました。
トム役の中山祐一朗さんは、もしかしたら初めて観る方だったかもしれません。不思議な佇まいの役者さんですね。今回観て、とても好きになりました。トムは、海辺の家の雰囲気を作り出している中心人物の一人。世界は以前と何も変わらないかのように海で泳ぎ、波間を漂うエリコの遺体を今日も見たとリュウゾウに報告し、朝市で買ってきた食材や海で獲ってきた魚介類で料理を作る。全ての異変を見ないふりをしているのかもしれないし、本当に彼にとっての世界は何も変わっていないのかもしれない。ラストシーンの食卓で、彼は本当に料理に毒を振りかけたのかもしれないし、振りかける真似をしただけなのかもしれない。面白いキャラですよね。そういえば、トムが舞台上でボンゴレ・ビアンコを作るシーン、客席まで料理のにおいが漂ってきて、「わあ、本当に料理してる!」とびっくりしました。いやまあ、時間もないので、そこそこ作ってあるパスタを温めてかき混ぜるくらいのことだったんでしょうが、あれって空腹で観てるお客さんいたら結構辛かったのでは(笑)。
ユキ役の石橋けいさんは、双子の赤ん坊を抱え、この世界の行く先に絶望と苛立ちばかりを募らせているような役。双子を失ったことで何かが吹っ切れたかのように自由になる感じがとても印象的でした。赤ん坊にちゃんと向き合おうとしないタクトが、いなくなった赤ん坊の代わりに置かれていた人形を抱えた瞬間に、ユキが発した「あ。初めて、赤ちゃん、抱いた」という声がものすごーく怖かったですよ…。
タクト役の葉山奨之くんは、見覚えがあると思ったら「Nのために」で榮倉奈々ちゃんの弟役やってた人でした。タクトは、変わってしまった世界に戸惑い、恐れ続けてる人。海辺の家の人々が平気で食べ物や水を口にする度に「あっ」という顔をし、「ああもう」という感じに顔をそむける。どうせこの先まともに育つわけもない双子の赤ん坊に向き合うことがどうしてもできず、妻のユキとの関係もだいぶ壊れてる。常識人ゆえに、様々なことが受け入れられないんでしょうね。役作りなのか、タクトが他の人を非難したり自分の想いを吐きだしたりするときの葉山くんは少しどもりがちで、そんな彼がラストで海辺の人々の食卓に実に自然に加わったときの口調がそれまでとは全然違っていて、上手いなと思いました。「見ーせてっ」って、タクトいきなり可愛くなったな!(笑) まるで夢の中で生きてるかのような海辺の人々を頑なに拒み続けていた彼が食卓に加わった瞬間、全ての登場人物が夢に食われてしまったのかもしれませんね。だからあそこでこの物語は終わりを迎えたのでしょう。
そして、ローラ役のりょうさん。ローラだけが、この家で誰とも家族ではないんですね。リュウゾウとハルキの父親の介護をしている看護師で、トムがどこからか連れてきたらしい。眠る老人の言葉を唯一聞き分け、人魚のように泳ぐという彼女。何者かまったくわからない女性なんですが、それをりょうさんがほんわりした感じに演じてて、それがとてもハマってました。りょうさんといえばドラマや映画では割と強気だったり怖い感じだったりする女性を演じることが多い気がするんですが、ほわほわした優しい女性役も似合いますね。イラがハルキの指を切り落とした後、ローラが手当てをしてあげるんですが、このシーンのマイペースぶりが大変面白かったです。「あら。指が反対向きにくっついてますけど、どうします?」と尋ねたり、痛みに悶絶したハルキが持ち上げた手のひらにそっとハイタッチしてあげたり(笑)。ローラはもしかしたら人間ではないのかもしれず、あるいは夢に食われていく人々の傍らで彼女だけが起きているのかもしれない。ラストシーンの、楽しげに食卓を囲む人々から静かに離れ、ろうそくを吹き消していく彼女の姿の姿はとても美しく、けれどなんだか恐ろしく、大変印象的でした。

登場人物のほとんどが途中でキャラが変わってしまうようなお話ですが、それがさほど違和感もなく受け止められるのがすごいと思いました。なんなんでしょうね、雰囲気作りが上手いのでしょうか。「キャラ、ぶれてるじゃん!」というよりも、「ああ、そうだよね」と納得できる。そして、ラストシーンで、毒薬の話をしながら楽しげに食卓を囲む彼らの姿が徐々に闇に包まれていくのが、不思議な余韻を残してくれてとても好きでした。舞台だからこそ作れる空気感、舞台だからこそできる作品という感じで、「ああいいもの観たなあ」という気分で劇場を後にすることができました。

もしも世界が終わりを迎えるとして、そのとき自分が生きていたらどうするか。たまに考えることがあります。どうしても守りたい誰かが一緒にいるなら、無様にあがくかもしれません。でも、あがいたところでどうしようもないとわかっていたなら、私は残りの時間をせめて楽しく過ごそうとするような気もします。それこそ、海辺の家の人々のように。汚染された食べ物であろうと、それが美味しく食べられるのであれば普通に食べるかもしれません。どうせ死ぬなら、怖いことや苦しいことは見ないようにして、世界は何も変わっていないかのように振る舞う方がまだましなのかもしれません。
そういえば、ずっと前に「世界の終わりの一日前」という設定の夢を見たことがあります。その夢の中では、誰も絶望なんてしてなくて、シャンパンをあけたり、歌を歌ったり、肩を組んで笑いあったりしていました。夜空には幾つも花火が上がっていて、信じられないくらい大きな金色の星が星座板そのままに金色の線で結ばれて星座を描いていて、私はそれを眺めながら「世界の終わりっていうのは存外綺麗なものなんだな」と思っていました。何がどうしてそんな夢を見たのかはわかりませんが、そう悪い夢ではなかったように思います。夢判断のできる方、誰か分析してください(笑)。

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プロフィール

水瀬桂子

Author:水瀬桂子
水瀬桂子。
1月21日生まれ。水瓶座のO型。
趣味は観劇、映画鑑賞、読書。旅に出るのも好きです。
おいしいものを食べて、素敵な物語に接していられれば、この上なく幸せです。
三笠書房f-Clan文庫さんより、『妓楼には鍵の姫が住まう-死人視の男-』『妓楼には鍵の姫が住まう-黄泉がえりの人形-』が発売中です。

なお、「水瀬桂子」は「渡瀬桂子」と同一人物です。渡瀬桂子名義の近刊に『少年魔法人形 キスからはじまる契約魔法』『ある日、月の夜に。-わがままな魔女と人狼の騎士-』(ともに一迅社文庫アイリスさんより)があります。水瀬名義は、f-Clan文庫さんが初めてです。こちらは、より趣味っぽい感じのもの用になりそうな予感…。

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