瀬を渡り水の向こうへのナビゲーター   topページ > 2015年08月30日  

貴婦人の訪問。

2015 - 08/30 [Sun] - 15:20

めっきり涼しくなってきましたね! うちの猫は、今日になってやっと「…意外と寒い?」と気づいた模様。新聞紙を敷いた箱にみっちりと詰まって、顔も上げません。傍に寄って声をかけると「あらお仕事しなくちゃ」とばかりに起き上がって、餌をねだってみたり、なでてくれと訴えてみたり、愛らしさを振りまいてみたりするのですが、私がちょっと離れると「お仕事終了!」とばかりにまた箱に戻ります。…うん、そうだよね、貴女のお仕事は、三食昼寝付きおやつ付きで住み込みで業務内容は「可愛らしくすること」なんだもんねー。ちなみに、たまに有休もとります。出かけたっきり帰ってこないときは「そうか、今日は有休とってプチ旅行か」と思うことにしてます。猫とはそういうイキモノ。

それはともかく、ミュージカル「貴婦人の訪問~THE VISIT~」を観てきました。シアタークリエにて。観てからちょい日数経ってしまったのですが、思い返すと本当に、贅沢な舞台だったなあ…と。今期の「エリザベート」がキャスト一新したので、それじゃ旧キャストの皆様はどちらに、と思っていたらここにいた! そのほかにもすごいメンバーそろえてきた! 山口祐一郎さん、涼風真世さん、春野寿美礼さん、今井清隆さん、石川禅さん、今拓哉さん、中山昇さん!! このメンバーがずらっと並んで歌ってるのを観られる、この幸せ! ストーリーはなんというかこう、「人間怖っ! そしてどーしよーもないっ!」という感じなんですが、それをあえてコミカルでシュールな感じに見せてるのが山田和也さんの演出らしいというか。楽曲はドラマティックで、特に涼風さんの迫力ある熱唱が素晴らしかったです。
というわけで、感想です。ネタバレしますよー。

その日、ギュレンの町の人々は皆、熱狂していた。なぜって、世界的な大富豪であるクレアがこの町に帰ってくるから。クレアはこの町の出身、とある事件を境に町から出ていき、そして大富豪の妻となり、夫の死後にその財産と仕事の全てを受け継いだ女性。ギュレンの町は今、財政破綻の危機に瀕している。だが、クレアならきっと町を救ってくれるはず。町が貧しくなった一番の原因は、工場が閉鎖されたこと。クレアに工場を買い取ってもらって、もう一度工場を再開できれば、また町に人が集まり、暮らしは豊かになるはず! でも、誰がクレアにそれを頼めばいい? 誰がクレアと親しかっただろう? そう、アルフレッドだ。今では妻のマチルデとともに雑貨屋を経営するアルフレッドは、以前はクレアと付き合っていた。彼ならきっと、上手いことクレアに財政援助を依頼してくれるに違いない!
やがて、2人のボディガードと黒豹を連れたクレアが、町に到着した。豪華な衣装、杖を突きつつも威厳にあふれたその姿。彼女は、町の状況を勿論把握していた。快く、援助の依頼にもうなずいてくれた。総額20億ユーロもの金を払ってくれるとのことだった。けれど、彼女は一つだけ、町の人々に要求を出す。それは、「アルフレッドの死」。彼が死ねば20億ユーロを払おうというのだ。こうして小さな町は、欲に踊らされていく…――。

アルフレッド役は、山口祐一郎さん。相変わらずこの方の台詞回しは、歌ってなくても歌ってるように聴こえる。地の喋り方がふわあっと音楽的に響いて耳に心地よいです。そして、なんて可愛らしい人なんでしょうね!(笑) そういえば山口さんが普通の人を演じてるのを初めて観ましたが、伯爵オーラだの黄泉の帝王オーラだの猊下オーラだのをなくすと、ものすごく可愛い人になるんですね! 伯爵だったり閣下だったり猊下だったりしたときも可愛らしさが時々ダダ漏れしてましたけど! 特に今回のアルフレッドは、周りの皆からちやほやされたり、かと思えばじわじわと追い詰められていったりするものだから、ほややんとしたりおろおろしたりと愛らしさ満載! 本当に、この方の身振り手振りの愛らしさは一体どうしたことなのでしょう…手足が長すぎるのを持て余してるのでしょうか。ていうか何歳でしたっけこの方、若いな! そして歌わせると、相変わらず素晴らしいロングトーン! 私が観た回はちょっとのどの調子が悪いのかなという感じもあったのですが、それでもやっぱりこの方の声は素敵ですね。惚れ惚れします。
クレア役は、涼風真世さん。…この方こそ、「ちょっと待って、何歳でしたっけ!?」と観る度に思います(笑)。ご自分でよく仰るキャッチフレーズが「昔、妖精。今、妖怪」なんですが、今でも妖精…いや、今でもこの外見を保ち続けてるのは確かに妖怪かもしれん…間違いなく人外の何かですね。クレアがアルフレッドの死を求めたのは、かつてアルフレッドからひどい仕打ちをうけたから。アルフレッドの子供を妊娠したのに認知してもらえず、それどころか法廷で娼婦呼ばわりされ、その後で納屋の二階から突き落とされたから。おかげでクレアは脚が悪くなり、二度と子供を産めなくなり、その上、本当に娼婦に身を落として町から出ていったのです。大富豪の妻となり、お金と権力は手に入れたけれど、彼女の心はあのとき死んだまま。自分を苦しめたアルフレッドと、自分を追い出したギュレンの町。その二つに復讐するために彼女がやったことが、なんというかすごい! 時間もお金もかけてます。ギュレンの町の財政破綻の原因となった工場の閉鎖、これがまず彼女の仕業だったという。事前に彼女が工場を買い取り、わざと閉鎖させたというのです。そして、町が十分貧しくなったところで颯爽と姿を現し、財政援助と引き換えにアルフレッドの死を求める…世界的富豪の考えることは、なんというか一般人とは桁が違いますね! でも、そうやって復讐の女神と化しつつも、今でもアルフレッドに気持ちを残してるところが切ない。かつてアルフレッドとデートした森(そこも今ではクレアに買い取られて、彼女のものとなってる)で、今でも愛を語るかのようにアルフレッドと歌いあい…そして「死んでも、許さない」と言い放つ一幕ラストのクレアは、美しく、恐ろしく、そしてとても悲しい。現在のアルフレッドは愛らしいおじさんですが、過去のアルフレッドはどう考えても人間の屑なので、「やってやれクレア!」と応援したくもなりましたよ。かつて2人が森の木に刻んだハートマークが、今では呪いの印にしか見えないのが滅茶苦茶怖かったですけどね。

クレアの要求を聞き、最初は「そんなこと許されない!」「飢え死にでもした方がマシだ!」と言っていた町の人々が、次第に金に狂っていく様が怖くもあり、おかしくもありました。どいつもこいつも新しい服だのなんだのをクレジットで買い始める。市長のマティアスは新しい市庁舎を建てようとし始めるし服もぴっかぴかになる。警察署長のゲルハルトも、靴も制服もぴっかぴかに。牧師のヨハネスは教会の鐘を新調し、勿論服もぴっかぴかに。この、町の人々の服がどんどんぴっかぴかになってくのが面白い(笑)。クレアの黒豹が逃げ出したのを口実に町の人々が銃を手にし始めたのを見て、本格的に身の危険を感じたアルフレッドが町から逃げようとするんですが、そのときの町の人々の様子がものすごく怖い。にこにこして「元気でね、アルフレッド」とか言いつつ、すいっと距離を詰めてくる。いつ線路に突き落とされるかと思うととてもホームの端に寄る気になれず、結局電車に乗れないアルフレッド。車という選択肢はないんですね、アルフレッド。
市長のマティアス役の今井清隆さん、面白かったですねー。オムツもクレジットで買っていきましたよ(笑)。そしていつ聴いても素晴らしい美声! キーヨさん大好きです。
そしてこの方も大好き! 校長のクラウス役、石川禅さん! 雑貨屋で飲んだくれつつ子役ちゃんとからむシーン、可愛かったー。クラウスだけは町が金に狂っていく様に怯え、警告を発し、他の皆がクレジットで馬鹿買いしてても自分はよれよれのコート姿でいるんですが、自分で「俺だって、いずれは欲に負ける」と言っていた通り、最終的には彼も負けてしまいました。クライマックスで町の人々が出てきたとき、禅さんのコートや帽子がぴっかぴかになっているのを見て思わずびくっとしました私。お前もかクラウスー!!
アルフレッドの妻マチルデ役の春野寿美礼さんも、美しかったですねー。洗練されて美しすぎて、雑貨屋の奥さんに見えない(笑)。マチルデは、町の人々が金に狂っていく中でも一見マイペースに振る舞い、アルフレッドを守ろうとしていたんですが、アルフレッドから「君のことを愛していたわけじゃない。金のために結婚した」と言われるに至り、彼から離れてしまいます。うん、当たり前だよ! アルフレッド、たとえそれが本当だったとしてもそれは言っちゃいかんよ! クライマックスでは、マチルデの衣装も当然ぴっかぴかに。買ったのか、買ったのかクレジットで!

町の人々に裁きにかけられ、全員一致で有罪という判決を下されたアルフレッド。町の人々が彼を取り囲み、再び離れたときにはそこにアルフレッドはすでに死んで横たわっている。…ええと、これ、どうやって彼が死んだのかわからないんですが、リンチ的なアレだったらものすごく嫌だなー…うーん、人間怖い。そして、町の人々が誰一人涙を見せない中、アルフレッドの傍に膝をついたクレアだけが泣くのがなんというか、こう…うーん、人間って、人間って…。

もし、自分が、クレアの立場だったらどうするか。ちょっと考えてしまいました。過去にひどい目に遭わされて、心も体もぼろぼろにされて、そして今、全ての復讐を遂げるだけの力があったら。私だったら…クレアと同じ選択肢を選ぶ気もするし、それでも別に気は晴れないだろうからやらない気もする。でも、それですべての過去に決別できるなら、やっぱりやるかな。過去の男も、町も、全てにさよならできるなら。
もし、自分が、アルフレッドの立場なら。…逃げます。はい、全力で逃げます!
もし、自分が、マチルデの立場なら。…やっぱり、夫を連れて町を出るなあ。だけど、逃げた先で「君とは金目当てで結婚した」と言われたら、その場で旦那を殴って昏倒させて意識のない旦那を荷物に詰めて町に戻る。そして「どーぞお好きに」と町の人々に差し出すな。
もし、自分が、市長や警察署長の立場なら。…権力者同士手を組んで、上手いことアルフレッドを殺して金を手に入れます。
もし、自分が、牧師の立場なら。…アルフレッドは町を救った聖人ですということにして、誰がアルフレッドを殺しても赦しますね。
もし、自分が、クラウスや他の町の人々の立場なら。…事故に見せかけてアルフレッドを殺します。何人かで共謀して口裏合わせて、なんなら警察署長や市長も抱き込んで。事故はどんなときにも起こりうるのです。

結論。私もかなりどうしようもない。でも、だって20億ユーロだもん!! 人間って割とそんなイキモノですよ。

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プロフィール

水瀬桂子

Author:水瀬桂子
水瀬桂子。
1月21日生まれ。水瓶座のO型。
趣味は観劇、映画鑑賞、読書。旅に出るのも好きです。
おいしいものを食べて、素敵な物語に接していられれば、この上なく幸せです。
三笠書房f-Clan文庫さんより、『妓楼には鍵の姫が住まう-死人視の男-』『妓楼には鍵の姫が住まう-黄泉がえりの人形-』が発売中です。

なお、「水瀬桂子」は「渡瀬桂子」と同一人物です。渡瀬桂子名義の近刊に『少年魔法人形 キスからはじまる契約魔法』『ある日、月の夜に。-わがままな魔女と人狼の騎士-』(ともに一迅社文庫アイリスさんより)があります。水瀬名義は、f-Clan文庫さんが初めてです。こちらは、より趣味っぽい感じのもの用になりそうな予感…。

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