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チャーリィ・ゴードン!

2014 - 09/23 [Tue] - 02:25

舞台を観に行くと、「ああ、この役は、あの役者さんがやっても面白いかもしれないな」とか「この歌は、あの役者さんの声でも聴いてみたいな」と思うことがあります。そのとき観た役者さんに不満があったとかそういうわけじゃなくて、自分の知ってる別の役者さんをその役に当てはめて想像して遊んでるだけなんですけど。そしてこれが結構楽しかったりもするんですけど。
でも逆に、「ああこの役は、この人以外では考えられない」と思うこともあります。たとえば「なにわバタフライ」の戸田恵子さんとか、「ダディ・ロング・レッグズ」の井上芳雄くん坂本真綾さんとか、「スウィーニー・トッド」の市村正親さん大竹しのぶさんとか。実際に他のキャストで観てしまったらそれはそれで納得するのかもしれないですが、現時点ではもうこの人以外ありえない! というはまり役。
そして今回、またそういう役に出会ってきました。天王洲銀河劇場で上演中の「アルジャーノンに花束を」のチャーリィ・ゴードン役。浦井健治くん。8年前の初演時には観てないので今回初めて観たんですが、もうねー…浦井健治という役者さん以外、考えられないキャスティング。他の人が演じてる様なんて全然想像できない! すごかった!!
というわけで、感想です。思いきりネタバレしますよー。

チャーリィ・ゴードンは32歳。でも知能は幼児並み。「ぼくわかしこくなりたい」それが彼の望み。ある日チャーリィは、ビークマン大学付属精神遅滞成人センターを訪れます。そこで出会ったのが、アリス・キニアン先生。優しく聡明な彼女は、チャーリィの素直な人柄と、何より向上心に注目し、知的能力を向上させる脳外科手術の被験者に彼を推薦します。研究室には、同じ手術をすでに受けたねずみのアルジャーノンがいました。アルジャーノンはとても賢くなっていて、チャーリィが解けないような難しい迷路の問題を解くことができるのです。チャーリィは教授たちに言います。「ぼくわかしこくなりたい」――だって賢くなればきっと、お母さんも喜んでくれるはずだから。もう長いこと会ってないお母さん、チャーリィが普通の子みたいにできないからといっていつも叱っていたお母さん。それに、賢くなれば、みんな僕のことをもっと好きになってくれるはず。そしたらたくさん友達ができるはずだから。「ぼくわかしこくなりたい」家族のために、友達のために、周りの皆ともっとつながるために。
手術を受けたチャーリィは、やがて急激に知能が上がっていきます。複数の外国語を習得し、難しい論文を幾つも読み、気づけば周りの教授たちよりもずっと賢くなっていたのです。けれど賢くなることは、彼にとって決して幸せなことではありませんでした。周りが彼を見る目は変わり、これまで気づかなかった様々な嫌なことに気づくようになり…それに、ずっと昔に起きたことを思い出すようにもなりました。その思い出は彼を苦しめ、女性を愛することさえ上手くできません。その上、チャーリィは気づいてしまうのでした。教授たちの理論には欠陥があったことに。アルジャーノンや自分が手に入れたこの知能が一時的なものである可能性に。そんなある日、アルジャーノンに異変があらわれました。それは退行の始まりでした…――。

ダニエル・キイスの小説「アルジャーノンに花束を」をミュージカル化した作品です。しかも日本オリジナル。先日、福山雅治さんのラジオを聴いてたら、突然この舞台のCMが流れて、浦井くんの歌声が聴こえて「うわああっ!?」となりました。主催・製作がニッポン放送だったんですね。びっくりしました(笑)。

浦井くんのチャーリィは、もう素晴らしいとしか言えません…冒頭のチャーリィの、「おしえてくださぁい!」の第一声を聴いたときからもう涙が出てたんですけどどうすればいいんですか私! 声だけでもそんなだったのに、彼が舞台上に登場して「ぼくねー、ぼくー、ぼくわかしこくなりたい!」とのたまった瞬間、もうぼろぼろっと涙が! にじむとかじゃなくて本当にぼろぼろっと…ああもう、あなたどうしてそんな無垢な笑顔を浮かべられるんですかー…それに続く「ぼくわかしこくなりたい」の歌がまた、胸に沁みて沁みて。もともと原作が好きだったせいもあるとは思うんですが、浦井健治のあの笑顔に完全にやられました。この人がこの後どうなるのかを知ってる分、余計に辛い。教授たちに囲まれて、彼らの言ってることがよくわからなくて不安な表情になったり、でもすぐに笑顔に戻ったりする、まだ賢くなる前のチャーリィの演技が本当に見事でした。そして、手術後の変化も。最初はなかなか賢くならなくて苛立つ様も、高い知能を獲得して別人のようになっていく様も、声から表情から歌い方から立ち方から、どんどん変わっていって。「シャーロック・ホームズ」のときの双子演じ分けもすごかったですけど、今回は同一人物が変化していく様ですからね。圧倒されました。声の色が全然違うんですよねー…浦井くんの綺麗な高音も大好きなんですが、低音の響き具合がものすごくぐっときて、心臓持ってかれた気分になりましたよ(笑)。何度でも惚れ直させてくれる役者さんですね! 徐々に退行していく様や、家族とのシーンは切なかったなあ…小さい頃のエピソードも、何もかもわからなくなる前に家族に会っておこうと父親や妹に会いに行くシーンも、ぼろぼろ泣きました。完全に退行してしまったチャーリィが、再びキニアン先生に会いにくるところも辛かった…一瞬だけ、賢くなっていた頃、彼女を愛していた頃のように「…アリス」と彼女のことを呼ぶという。
アリス・キニアン役の安寿ミラさんは、今回初めて観たんですが、とても美しい方ですね。あと私、彼女の声がものすごく好きなことに気づきました。この方がアリス役で良かった…チャーリィが恋心を抱く相手。そして、チャーリィが変化していく様を、その始まりから終わりまで見つめる役。チャーリィが実際に体の関係を持つのはフェイという女性で、このフェイ役の秋山エリサさんもすごく良かった。原作そのままの、奔放で楽しいフェイ。そして、桜乃彩音さん…この方も美しかったですね。チャーリィに同情的な看護師や、チャーリィの記憶の中の母親や、現在の妹など、複数の役を演じてらしたんですが、母親のシーンが特に…鬼気迫ってました。すごかった。吉田萌美さんが演じてた子供時代の妹のシーンは、妹の言い分もわかるだけに余計に泣けました。
良知真次くんは、ロミジュリのCDで声だけ聴いたことはあったんですが(私が観たときはマーキューシオ役は石井一彰くんだったのです)、目力の強いかっこいい人ですね! ロミジュリ初演のベンヴォーリオとマーキューシオが再び共演してると思うと何か違う感慨も生まれてきてしまいますが、今回の良知くんは二―マー教授やパン屋のギンピイといったチャーリィに辛くあたる役。Sだった、Sっ気満載だった!(笑)パン屋での「ささやかな不正」のシーンのダンスはかっこよかったですね。
宮川浩さんは、「二都物語」の髭面とは打って変わってすっきりなお顔(笑)。彼の役はストラウス教授やパン屋のドナーさん、そしてチャーリィの父親と、「保護者」的な立場のもの。どっしりした存在感があって、この人がいてくれるとなんだかちょっと安心できる感じがありました。台詞言い間違えてましたけどね(笑)。高木心平くんはたぶんテレビドラマでは観たことあると思うんですが、舞台で観るのは初めて。歌はちょっと不安定なところもありましたが、ハンサムさんですね。「お父さんお母さんより」でお花が届いてて、なんだかすごくほっこりしましたよ!
そしてアルジャーノン役、森新吾くん! ねずみのアルジャーノンをダンスで表現! くるくる動きながら他キャストの間をすり抜けていくのがすごかった…動きがとっても綺麗。アルジャーノンが退行して、一緒の檻にいたネズミを食い殺してしまうシーンはショッキングでした。チャーリィに目を向けてたら、その後ろでとんでもないことが起こってて! 「アルジャーノンはもう賢いねずみじゃない」というチャーリィの台詞が辛かった…。

原作を読んだときはあまりにも辛くて、他の人に貸すときは「いい話だけど落ち込むよ」と必ず言ってたんですけど、この舞台のラストは辛いながらも不思議に白い光が射す感じもあって。キャストが皆、花束を抱えて出てくるあの場面。そして、真っ白な服で現れるチャーリィ。辛いんですけど、切ないんですけど、でも美しいラストシーンでした。観に行って本当に良かったです。しかも、なんとCD化決定だそうで! 劇場で予約してきました! 歌と台詞がかぶってるところとか、どのくらいCDに入るんでしょう…二枚組ってことは、それなりの曲数ですよね? 期待していいんですよね?

そして、トークショー付きの回だったので、終演後はそのままキャストトークを聴いてきました。森くんが司会で、他キャストは浦井くん、安寿さん、宮川さん、良知くん。本編終わった直後だったので、最初に一人ずつあいさつしたときに安寿さんがまだちょっと放心してて面白かったです(笑)。放心しますよねえ、アリス役は…「この舞台を背負ってる人ですからね」と浦井くんも言ってましたし。安寿さんも「頑張って背負わないと!」と身振り付きで宣言し、森くんが「この大きい人を!」とツッコミを入れ、「ええっ、僕!? 僕を背負うの!?」と浦井くんが驚いてました笑)。
浦井くんはまだちょっとチャーリィを引きずってる感じの話し方で、「ぼくねー、ぼくわかしこくなりたいです! お話の中で『蓋然性』とか『ラハジャマティ』とか言ってるところは実は自分でもよくわかってないです! …いや、そんなことはないですけど」と話し始めて。再演の話を聞いたときはどうだったのという質問には、「安寿さん、宮川さん、新吾がいるって聞いて、『うわっ!』て思いました!『嬉しっ♪』って! で、良知くんが出るって聞いて、『らっちゃん♪』って!」と嬉しそうに話してました。とても仲の良いカンパニーみたいで、見てて微笑ましかったです。浦井くんが稽古場にたくさん差し入れをしたというお話も出てました。稽古場があったビルの地下一階と一階がお惣菜とかお菓子とか売ってたらしくて、買うのが楽しくてしょうがなかったとか。で、あるときお買いものしてたら「ぷぷぷぷっ」と笑い声がして、見たら稽古場の上で公演してた某役者さんのファンと思われる女性達がこっちを見ていたと。「あ、やばい、ここ、『見られるところ』なんだ!」と気づいてぱたぱたと手を振って逃げたようです(笑)。芸能人は大変ですね! あと、カルディでハロウィンセット(?)を一式買って稽古場に置いてたいうお話も。「ハロウィンもうすぐだもんね!」と森くんに言ったら、「…え? ハロウィンっていつか知ってる?」という話になり、「ええと…10月の終わり…?」と、自分がものすごいフライングをしていたことに気づいたとか。ええ、私も8月末に店頭にハロウィングッズが並んでるの見て、慌てて毎年恒例のハロウィンパーティーの準備に取り掛かったりしましたけどね…日本のお店の季節感早すぎ!
浦井くんと森くんのシーンをお稽古している間に、稽古場の上の空中庭園で他の皆が記念撮影をしていたというお話もありました。参加できなかった浦井くんと森くんは、卒業アルバムで写真撮影に欠席した人みたいに、写真の上の方に丸く加工して加えてあったとか…「じゃあ、僕ら二人だけで今度またそこに行こうよ!」「え、屋上に? う、うん、そうだねー」と明らかに上滑りした会話を交わす浦井くんと森くんに、良知くんがさっくりと「それ、絶対行かないでしょ2人とも」とツッコミを入れていましたよ(笑)。
良知くんといえば、安寿さんが良知くんの舞台稽古での台詞間違いを暴露してたのも面白かったです。(その前に「え、これ言っていいの? 二枚目で売ってる人だっけ?」と言う安寿さんに、森くんが「違います」と答え、良知くんが慌てて「自分で言うのと他の人に言われるのじゃ違うよ!」って言ってたのも面白かったですが(笑)。)アルジャーノンが死んだらどうするかというシーンで「実験動物の処理方法といえば冷凍庫か焼却炉だ」とニーマー教授が冷たく言い放つんですが、そこで良知くんは「冷凍庫か冷蔵庫だ」と言い放ったらしい…しかも演出の荻野さんが芝居を止めなかったものだから、安寿さんは「どれだけ冷蔵したいの!」と爆笑したい気分を死に物狂いで押さえ、芝居が止まった瞬間に良知くんに殴り掛かったそうです(笑)。確かにどれだけ冷やしたいんだ良知くん!

観てるこちらも放心するほどのお芝居だったんですが、トークはこんな感じで爆笑もので。でも、浦井くんのしてたお話でひとつとても素敵だなと思ったのが、「僕、劇場にタクシーで来たときに、正面の入口のポスターを見ながら立ち止まってる老夫婦を見て。きっと年金暮らしです!(きっぱり。←いや、浦井くん、そこなぜ強調…?)で、ポスターの公演日程を指差しながら、『ここなら観に行けるかねえ』って感じに話してらして。僕のこと知らなくてもダニエル・キイスさんの書いたこの作品は世界中に知られてて、観に行きたいって思ってもらえてて。それに恥じないような作品にしたいです」というお話。いや、その老夫婦が浦井くんのこと知ってても別に何の不思議もないんですけど(劇場って、結構お客さんの年齢層高いですしね)、でもそうやってこの舞台を観たいねって話してる方がいらっしゃるのって、なんだかとっても素敵。というか、ぜひたくさんの人にこの舞台を観ていただきたい。本当にオススメですよ。

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プロフィール

水瀬桂子

Author:水瀬桂子
水瀬桂子。
1月21日生まれ。水瓶座のO型。
趣味は観劇、映画鑑賞、読書。旅に出るのも好きです。
おいしいものを食べて、素敵な物語に接していられれば、この上なく幸せです。
三笠書房f-Clan文庫さんより、『妓楼には鍵の姫が住まう-死人視の男-』『妓楼には鍵の姫が住まう-黄泉がえりの人形-』が発売中です。

なお、「水瀬桂子」は「渡瀬桂子」と同一人物です。渡瀬桂子名義の近刊に『少年魔法人形 キスからはじまる契約魔法』『ある日、月の夜に。-わがままな魔女と人狼の騎士-』(ともに一迅社文庫アイリスさんより)があります。水瀬名義は、f-Clan文庫さんが初めてです。こちらは、より趣味っぽい感じのもの用になりそうな予感…。

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