瀬を渡り水の向こうへのナビゲーター   topページ > 2013年11月19日  

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ひさしぶりに観劇はしご(その2)

2013 - 11/19 [Tue] - 01:04

というわけで、観劇はしご二つ目「イーハトーボの劇列車」の感想です。こちらもネタバレしますよー。観ている最中にちょっと大きな地震がありましたが、お芝居は止まらずほっとしました。客席が多少ざわついたくらいで、役者さん達は少しも動じず。さすがです。

さて、「イーハトーボの劇列車」。井上ひさしさんによる、宮沢賢治を題材にしたお芝居です。少しだけ傾いた楕円形の回り舞台が印象的でした。公演プログラムに載っていた演出の鵜山さんのお言葉によると、それは星雲を表しているのだそうです。確かによく見ると、回り盆の上には筋状に幾つもの色が塗られていて、意外とカラフル。そしてその盆の上で繰り広げられるお芝居は、様々な思想のぶつかり合い、理想と現実、そして人の生と死。
しかしこのお芝居、あらすじを書くのがなかなか難しい…基本的には、賢治が花巻から東京へ向かう列車の中のシーンと、上京した先でのシーンとが、年単位で時間を経過させながら続いていく感じなんですが。列車の中で賢治は様々な人(その中には、賢治が書いた童話から出てきたとおぼしき人物が何人もいます)と出会い、上京した先では色々な人と議論を重ねる。宮沢賢治が作品中で多用した独特の擬声語を取り込んだお芝居はとても不思議な雰囲気で、あちこちおかしくて笑えて、だけど切なくて。うーん、やっぱり上手く説明ができません。でも私、このお芝居とっても好き…観に行けて本当に良かったと思います。

宮沢賢治を演じたのは、井上芳雄くん。花巻弁な上にものすごい台詞量なんですが、素朴で純粋な賢治を見事に演じていらっしゃいました。本当に、先日武道館でオレンジのきらきら衣裳や網タイツをお召しになっていた毒舌な方と同じ人とはとても思えない(笑)! ちなみに武道館でいただいたチラシとライブの半券を持っていくとサイン入り舞台写真をいただけるとのことだったので、ばっちりもらってきてしまいましたよ。病床のシーンのお写真でしたが、素敵な笑顔。
列車の中のシーンも印象的なものが多いんですが、私はやっぱり上京した先での論争のシーンが好きです。最初、病気で入院した妹のとし子の看病のために上京したシーンでは、賢治はまだ22歳。とし子と同じ病室に入院しているケイ子とその兄である第一郎を相手に、主に肉食について議論が展開。第一郎兄妹はセレブな感じの人達で、とし子の分まで高級レストランのタルタルステーキを取り寄せてくれるんです。が、賢治は熱心な法華経信者で、肉食を絶っている。「いやでも、とし子、お前は体力をつけなくてはいけない」と、無理矢理とし子には肉を食べさせようとするんですが、タルタルステーキの載ったスプーンをぐいととし子に近づけつつ、「なんみょーほーれんげーきょー!」と唱えるという(笑)。落ち着かない! お兄ちゃん、そんなの唱えられながら肉差し出されてもとし子食べられないよ!! 案の定、嫌がるとし子。すると賢治は「とし子。そんなに嫌そうな顔をしてはいけない。もしも僕がこの牛だったらどうする。家族全員食肉にされて、自分もひき肉にされて何べんも叩かれてこんな料理にされて、なのにそれを食べるお前がそんなに嫌々だったら、この牛はどう思うと思う?」と言い出し、とし子の後ろに立って「『ああ、あんなに辛い思いしたのに、この人はこんなに嫌そうに食べてる。辛いなあぁ…寂しいなぁあああ…』」と牛さんの恨みを代弁する賢治! 両手の人差し指で角まで作って! やめてやめて余計食べられないー! 勿論横でそんなことされたら、第一郎兄妹だって食べられないわけで。「やめてくれないかそれ!」と第一郎が叫び、そこから肉を食べることについての議論が始まりました。「君は肉を食べるのは駄目だと言うが、世の中には鉱物と植物と動物しかないんだぞ!? 肉が駄目なら、君は食料の三分の一を諦めろと言ってるのと同じだ! 世の中の三分の一の人に飢えろと言ってるようなものだ!」と第一郎が言うと、「牛一頭育てるのにどれだけの土地がいるか知ってますか? それと同じだけの土地に小麦を植えたら、どれだけの食料になると思います?」と賢治が返したりして。この第一郎がまた面白い…リズミカルな台詞回しで、テンション高くてよく動くし歌ったりもする(笑)。演じている石橋徹郎さんは背も高いしとてもハンサムなんですが、とにかく面白かったです。ケイ子役の松永玲子さんも、台詞は少ないんですが独特の雰囲気で面白かった!
その後の、お父さんとの法華経をめぐる論争のシーンも楽しかったです。審判役に木野花さん演じる下宿の大家さんがいて、うまいこと言うとお手玉をくれるんですよ(笑)。このときは最終的には賢治が言い負けて、「頭を冷やしてきますっ」と外に出ていこうとし、途中で足を止めて、お父さんに向かって「たぬきおやじっ」と罵るんです。何しろその前にさんざんお父さんに罵られてますからね、仕返しのつもりだったのでしょう。でもお父さんにその先を促されると、それ以上の罵りの言葉が出てこなくて、「…それだけっ!」と言ってわーっと走って出ていくのが可愛い(笑)。井上くんが演じる賢治、なんだかすごく可愛くて面白くて魅力的なんですよね。他所ではあんなに王子様なのに、何なんでしょうこの素朴な感じは。
その後、刑事との農民についての論争は、見ていて結構辛かったです。お父さんと刑事はどちらも辻萬長さんが演じていたんですが、「お前は自分を農民だと言うが、何もわかっちゃいない!」と叫ぶ刑事の叫びが本当に心に痛くて。刑事さんは農村の出らしく、賢治の言うことが農民の現実とはかけ離れてることを指摘するんです。お前が見てるのは所詮夢だ、現実じゃない、お前は親に甘えたぼっちゃんだ、と責めたてる刑事に対し、最後はうつむいて「私は、子供です」と呟く賢治の姿が切ない。さらにその後のシーンでは、賢治が肺炎になって寝込んでるんですが、なにせ井上くん、ちょっと心配になるくらい色が白いものだから、横になってげほごほされてるとなんかシャレにならない…お体は大事にしてくださいね!と言いたくなります。病床のシーンのラスト、ぼさぼさのかつらをかぶって賢治が「山男だー!」と叫ぶところでは、とてもやるせない気分になりました。もしも賢治が山男のように丈夫な体だったならと思うと。でも、劇中に出てくる山男も決して幸せではないしなあ…うーん、色々やるせない。

賢治の行く先々に現れては、「思い残し切符」を渡して消える不思議な車掌さん。最初は一体何なんだろうこの人はと思っていたんですが、お芝居を最後まで観るとなんだかすごくしみじみして切なくなりました。病床の賢治のところに現れ、第一郎に「妹さんに渡してください」と切符を渡した車掌さんが、賢治に向かって「あなたには…ありません」と言ったときの口調が震えていて、それに返す賢治の「…わかっています」という言葉も震えていて。突然死んでしまって心残りのある人々がその想いを残す「思い残し切符」。それを受け取るためには、「まだこの先も生きていく」という条件が必要なわけで。それを思うと本当に、賢治の「わかっています」が辛すぎる。でも、一生懸命頑張って頑張ってでも色々上手くいかなくて疲れ切った賢治を、童話のキャラたちが殺そうとするのはどうなんだろう…「もう楽にさせてあげようよ、だってこの人はこの人なりに頑張ったんだから」、という気持ちもわからなくはないんですが、でもなあ…確かにこの世は修羅かもしれないけれど。列車の中で眠る賢治を取り囲み、そっと窓を開け放って冷たい風を賢治に浴びさせる童話のキャラ達。息を詰めて賢治を見つめる彼らの視線はとても必死で、だからこそ余計に胸が痛い。

ラストシーンはとても美しかったです。お芝居の冒頭と同じくずらりと盆の上に並んだ役者さん達、向きを変えて盆の中心に立つ赤い柱を見上げる彼ら。背景に浮かぶ星。まるで「銀河鉄道の夜」みたい。そういえばあれも死者を運ぶ列車でしたね。そして、思い残し切符を客席に向かってぱあっと巻く車掌さん。この切符の舞い方がまたとてつもなく美しく。お昼に観た「鉈切り丸」とは本当に真逆のお芝居でしたが、こちらもとても素晴らしかったです。再演したらまた観たい。勿論そのときははしごじゃなく、単品で!

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プロフィール

水瀬桂子

Author:水瀬桂子
水瀬桂子。
1月21日生まれ。水瓶座のO型。
趣味は観劇、映画鑑賞、読書。旅に出るのも好きです。
おいしいものを食べて、素敵な物語に接していられれば、この上なく幸せです。
三笠書房f-Clan文庫さんより、『妓楼には鍵の姫が住まう-死人視の男-』『妓楼には鍵の姫が住まう-黄泉がえりの人形-』が発売中です。

なお、「水瀬桂子」は「渡瀬桂子」と同一人物です。渡瀬桂子名義の近刊に『少年魔法人形 キスからはじまる契約魔法』『ある日、月の夜に。-わがままな魔女と人狼の騎士-』(ともに一迅社文庫アイリスさんより)があります。水瀬名義は、f-Clan文庫さんが初めてです。こちらは、より趣味っぽい感じのもの用になりそうな予感…。

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